【ソサエティー5.0の未来】 松田 美幸さん

松田 美幸(まつだ・みゆき)さん=福岡県福津市副市長
松田 美幸(まつだ・みゆき)さん=福岡県福津市副市長
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◆人間中心社会に照準

 近未来の社会を紹介する政府の広報動画に、山間地で暮らす高校生の生活が描かれている。インターネットで注文したお気に入りの運動靴は、指定の時刻にドローンで自宅まで届けられる。顔認証による受け取りに使われるのはモノのインターネット(IoT)や人工知能(AI)といった技術だ。彼女の祖母は自宅でパソコンの画面を通し、医師の診察を受ける。毎日自動測定される血圧や体温のデータをAIが分析して、個々の病歴や体調を踏まえて異常があれば知らせてくれる。畑では無人トラクターが作業し、コミュニティーバスも自動運転で走行する。

 このように新しい技術やビッグデータなどを、あらゆる産業や社会生活に取り入れ、多様なニーズにきめ細かに対応したモノやサービスを格差なく提供する-そんな人間中心の社会を「ソサエティー5.0」と呼ぶ。その目指す超スマート社会を、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、人類史上5番目の新しい社会として位置づけているからだ。重要なのは、山間地や離島でも、少子超高齢社会でも、その人らしい幸せな生活を送れる社会を実現することであり、格差のない、人間中心の社会をデザインすることにあると思う。

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 現在の情報社会が直面する課題は、情報を入手・分析して活用できる人とそうでない人の格差が広がり、組織間や地域間の格差につながっている点だ。情報が集積されるネット上の仮想空間と現実空間を行き来するには、人間が何らかの行動を起こし、情報を入手・分析したり、対象物を操作したりする必要がある。

 ソサエティー5.0が実現すれば、あらゆる情報がセンサーとIoTを通じ集積される。AIがそのビッグデータを解析し、高い価値を付加して現実空間に返すことで、そうした技術の存在に気づかないまま、誰もが技術の恩恵に浴せると期待されている。

 また、多様化する個々のニーズに対応しつつ、業務の生産性を大幅に向上させる取り組みにも期待は大きい。

 自治体の例でみると、さいたま市は、保育所の入所申請者のさまざまな希望条件を最大限に満たすための選考作業に、AIを導入した結果、手作業で50時間分の業務が、わずか数秒で完了したという。福岡県糸島市も移住希望者への適切な候補地区の提案にAIの活用を始めた。地方創生の取り組みにこそ、ソサエティー5.0の発想を積極的に取り入れるべきだろう。

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 九州経済産業局の主催で今月、初めての女性リーダー育成事業が始まった。自治体職員を含む産官学のさまざまな組織から集まった42人の受講生は、九州におけるソサエティー5.0の実現を目指す具体的な取り組みについて、来年2月に提案する。

 現場の第一線で働く人たちが業種を超えて連携し、理想のエネルギー、多様な人材活用、職場の健康、ものづくりといった社会課題の解決に挑戦する姿は頼もしい。

 私自身も企画段階から総括アドバイザーとして関わり、学ばせてもらっているが、こうありたいと願う未来を大胆に描く構想力は重要だ。そして、その「ありたい未来」の実現に向けたイノベーションを生み出す力が求められる。

 「未来からの反射」は、私が尊敬する、かつての上司から学んだ大切な視点だ。現在策定中の福津市まちづくり基本構想では、ありたい未来に生きる人々の姿をイメージし、そこを起点にこれから何をすべきかを考えるという手法を取った。多様な価値観や立場を認め合い、一人一人が健康で幸せに暮らし続けられるまちづくりに向けて、新しいチャレンジが始まる。

 【略歴】1958年、津市生まれ。三重大教育学部卒、米イリノイ大経営学修士(MBA)。2017年12月から現職。福岡県男女共同参画センター「あすばる」の前センター長。内閣府男女共同参画会議議員、内閣府少子化克服戦略会議委員。

=2018/10/29付 西日本新聞朝刊=

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