【日中韓の地政学】 藻谷 浩介さん

藻谷 浩介(もたに・こうすけ)さん=日本総合研究所調査部主席研究員
藻谷 浩介(もたに・こうすけ)さん=日本総合研究所調査部主席研究員
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◆近隣関係は視野広げて

 日本の隣国はロシア、韓国、中国(+台湾)、そしてグアム島までを領土とする米国だ。いずれ劣らぬ個性的な面々であり、強固な軍事力なり経済力、あるいはその両方を有している。

 日本人は意識していないが、これら隣国のうち中国や韓国(朝鮮)と日本との境界線は有史以来、固定的だった。戦前の大日本帝国は台湾・朝鮮・樺太(サハリン)を併合し、太平洋の諸島を信託統治したが、これはごく例外的なことである。その前後を通じて与那国島・五島列島・対馬・隠岐までが日本(日本語と同系の琉球語を話した琉球王国を含む)で、台湾・済州島・鬱陵島は国外だった。

 無人島の尖閣諸島と竹島については現在でも係争があるが、ここでは中国や韓国の主張の不審点には深入りしない。ともあれ固定的に住民がいる地域で、近世以前と現代とで国境が変わった場所は日中、日韓の間には存在しないということを、重ねて指摘しておく。

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 これに対し、中国・朝鮮・ロシアの国境は歴史的に移動している。平壌を都とした高句麗の領域の多くは、現在は中国の東北部になっている。中国は沿海州を1860年の北京条約でロシアに割譲した。歴史的に島国であり続けた結果、このような大きな国境線の変更を経験していないことのありがたさを、日本人はもっと自覚するべきだろう。

 だが気になるのは、そうした島国住まいゆえの日本人の視野の狭さが強まっているように思えることだ。現在54歳の筆者が子どもの頃には、「島国根性」という言葉が自戒の念を込めて日常的に使われていた。しかし大陸に進出していた戦前の記憶が薄まったこともあるのだろう。この言葉を見かけることが最近はとんと少なくなった。

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 ネットには、憂さ晴らしだけの目的で他国を中傷しているように見える文章があふれている。ネットでの暴論爆発は韓国もお互いさまだし、テレビに荒唐無稽な抗日ドラマが氾濫する中国もひどいが、かといってつられて日本人の視野が狭くなることに何のメリットもない。そもそも逃げられない隣国同士が相手の欠点ばかりをあげつらうようでは、他地域に比べてトラブルが増え、経済が落ち込むリスクが高まるだけである。

 日本人、なかんずく中国や韓国に近い九州の住民は、ぜひ知っておいてほしい。昨年(2017年)、日本は中国(香港を含む)から5兆3千億円、韓国から2兆7千億円、台湾から2兆円、合わせて10兆円の経常収支黒字を稼いだということを。これは同年の日本の原油と石炭の輸入額合計とほぼ同じだ。化石燃料資源のない日本が経済大国であり続けていることに、近隣国から頂いた稼ぎがどれだけ寄与していることか。

 また同じ17年、空前の日本旅行ブームの下で米国人の237人に1人が来日したのだが、総人口が米国の4倍以上もある中国本土からは189人に1人と、米国を上回る水準の訪日客があった。これが韓国になると7人に1人が来日している(年に複数回来れば複数人と数えた数字)。

 中国にも驚くが、韓国となると絶句するほどの高水準だ。これらの事実を踏まえた上で考えないと、昨今の徴用工問題にどう対応するか、背景にある韓国人の対日観とは本当はどのようなものなのかについて、客観的な判断はできないだろう。

 だからどうすべきだと主張するのは、筆者の本旨ではない。だが「島国ニッポンのネット世界に充満する日本語情報ばかりを見て、近隣国との関係を判断するのは禁物だ」ということだけは、重ねて指摘しておきたい。

 【略歴】1964年、山口県徳山市(現周南市)生まれ。88年東京大法学部卒、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。米コロンビア大経営大学院で経営学修士(MBA)取得。2012年1月から現職。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」など。

=2018/11/26付 西日本新聞朝刊=

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