【国会審議と未来のリスク】 平野 啓一郎さん

平野 啓一郎(ひらの・けいいちろう)さん=作家
平野 啓一郎(ひらの・けいいちろう)さん=作家
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◆評価すべき健全な批判

 立憲民主党の中谷一馬衆議院議員は、選挙ドットコムに『「野党は反対ばかりしている?」を客観的にデータ検証してみた。』(8月17日)という記事を寄稿している。

 丁度(ちょうど)国会の会期中で、テレビのニュースを見ていると、確かに野党は「反対ばかりしている」風に見えるが、前回(第196回)の国会では、143件の法案中、最も賛成率が低かった共産党でも衆議院で43.4%、日本維新の会は97.6%、立憲民主党は衆参両院で平均78.31%に賛成しているのだという。こうなると、維新の会などは、むしろ野党なのに「賛成ばかりしている!」と批判されるかもしれない。

 中谷氏は、立憲民主党が反対したのは、「成長戦略、依存症対策などあらゆる面で疑問だらけなのに、賭博ギャンブルを解禁して実行するカジノ法案」や「捏造(ねつぞう)データをもとに審議を続けてきた、働き方改革関連法案」などであり、自党も「合同提出も含め44本の議員立法法案を国会に提出した」と訴えている。

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 この事実確認は重要だが、他方で私は、そもそも何かに反対する、異議を唱えること自体への昨今の否定的な風潮が気になっている。

 第2次安倍内閣以降、首相は事あるごとに、「丁寧に説明する」と繰り返してきたが、安保法制然(しか)り、特定秘密保護法然り、共謀罪然り、或(ある)いは森友・加計学園問題然り、その後、実行されたことはない。どれほど乱暴な国会運営で採決強行を連発しても、しばらく放置しておけば世論も落ち着くだろう、と高を括(くく)っていて、実際、その通りになっている。まるで具体性のない入管難民法改正案を、技能実習制度の実態調査のデータをごまかしてまで、たった17時間余の審議で採決強行するなどというのは暴挙だが、有権者はまたしてもそれを黙認するのかもしれない。

 野党は、では、なぜ批判するのか? 政府の邪魔をすることが、自己目的化しているという非難があるが、本来は、法律制定後のリスクが予見されるからである。事実、問題がなければ、多くの場合、賛成しているわけで、政府は指摘を受けて、リスクを最小化するための方法を考えねばならない。これは、立法に限らず、どんなプロジェクトにでも、当然に必要とされるプロセスである。

 反対だけでなく、対案を出せともよく言われるが、それで野党は政権担当能力をアピールできようものの、政府は自らの無能を認めるようなものである。第一、そもそもまったく賛同できない無理な法案は、拒否する以外にない。

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 選挙で負けたのだから、野党は与党に従えという愚論も、昨今では堂々と語られるが、選挙結果は議会の布陣を決定するだけで、立法のために、政策を同じくする議員が多ければ有利であり、少なければ不利というに過ぎない。

 重要なのは、法律は、一国民全員に課される以上、多様性に配慮が行き届いたものでなければ、いずれは破綻する、ということである。政府は反対意見に耳を傾け、事前にリスクを回避すべく議論に応じ、場合によっては政策転換もしなければならない。

 ところが、現政権の野党や世論の批判への対応は、クレーマー対策のマニュアルでも参考にしているかの如(ごと)き、強硬な切り捨てである。そして、過激なクレーマーの存在に疲弊した社会の側も、ひょっとすると、国会で政府を追及する野党の姿勢に同種のものを見ているのかもしれない。

 無気力な翼賛体制が構築されれば、未来には巨大なリスクが積み上がってゆくばかりである。健全な批判の意義を、社会は評価すべきである。

 【略歴】1975年、愛知県蒲郡市生まれ。2歳から福岡県立東筑高卒業まで北九州市で暮らす。京都大在学中の99年に「日蝕」で芥川賞。渡辺淳一文学賞受賞作「マチネの終わりに」は映画化され、2019年秋に公開予定。新刊は「ある男」。

=2018/12/03付 西日本新聞朝刊=

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