【「黄金年」の幕が開いた】 徳増 浩司さん

徳増 浩司(とくます・こうじ)さん=ラグビーW杯2019組織委事務総長特別補佐
徳増 浩司(とくます・こうじ)さん=ラグビーW杯2019組織委事務総長特別補佐
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◆スポーツ見直す転機に

 平成最後の全国高校ラグビー大会の決勝が行われた1月7日。大阪桐蔭が初優勝を決めると、複数の新聞社から電話で取材攻勢を受けることになった。というのも、私自身がこの大会の昭和最後の優勝監督だったからだ。30年前、茨城・茗渓学園は県勢では初の決勝進出。対戦相手は、大阪工大高(現常翔学園)だった。決勝当日の朝、昭和天皇が崩御。やがて大会本部から宿舎に連絡があり「決勝中止・両校優勝」が告げられた。

 宿舎から出て、周囲の景色が全て灰色に見える中を、私たちは静かに大阪府東大阪市の花園ラグビー場の表彰式に向かった。1月にしてはとても暖かい日であったことを覚えている。

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 あの日から30年たった。2019年、平成から新たな元号へ。9月20日にアジア初のラグビーワールドカップ(W杯)が開幕し、福岡、熊本、大分など全国12の都市で開かれる。20年は東京五輪・パラリンピック、21年はワールドマスターズゲームズ(関西一円)と、国際級のスポーツイベントが3年連続で続く、いわゆる「ゴールデン・スポーツイヤーズ(スポーツ黄金年)」の幕開けだ。

 熊本では今年の11月から12月にかけて女子ハンドボールの世界選手権も開かれ、21年には福岡で世界水泳選手権がある。ラグビーW杯や五輪のキャンプ地も含めると、九州全体でこれ以上にスポーツがめじろ押しとなる時代はかつてなかっただろう。

 一方で、目を背けてはならない日本スポーツ界の現実がある。昨年から噴き出してきたパワーハラスメント、コンプライアンスの欠如、暴力、過剰な部活動の弊害等。これらはスポーツの問題であるとともに、私たちの文化の問題であり、日常の問題だ。スポーツの国際大会が「晴れの場」であるとするならば、私たちがおろそかにしてはならないのは、むしろ「日常」ではないか。

 笹川スポーツ財団の15年の調査によると、子どもたちが運動をする日数は13年と比べると明らかに減っている。10~19歳では、スポーツの実施レベルが低いほどテレビ、パソコン、スマートフォン等の利用時間が長いという。

 そもそもスポーツという言葉の語源は、「遊び」や「気晴らし」。あえて定義すれば、「体を使った遊び」とも言えるだろう。同財団の調査でも、4~9歳の子どもたちが過去1年間で行った1番のスポーツは「おにごっこ」で、「自転車あそび」「ぶらんこ」「かくれんぼ」「なわとび」と続く。

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 スポーツへの入り口をもっと気楽に考えたらどうだろう。先日、都内のインターナショナルスクールで興味深い場面に出くわした。私が指導するクラブで週末にラグビーをやっている12歳の男の子が、放課後に吹奏楽部でトランペットを吹いていた。練習は週1回、1時間だけ。顧問は「子どもはほかにやりたいことがいっぱいありますから」とのことだった。日本の学校のように運動部、文化部という二者択一もなく、スポーツも季節によって種目を変える。

 私たちに必要なのはスポーツに対してのこの柔軟性、敷居の低さ。いつでも気楽に参加できる機会や場所を創出し、工夫をしてみることではないか。学校施設の開放なども、まだ、まだフルに活用されているとはいえない。

 チャンピオンシップで世界一を決めることは素晴らしい。しかし、この機会にスポーツに対する考え方自体を思い切って変え、スポーツ黄金年が終わった後に体を動かす子どもたちの数が全国で増えてこそ、大会が成功したといえるのではないか。そのための施策は今しかない。

 【略歴】1952年、和歌山県生まれ。国際基督教大(ICU)卒、新聞記者を経てカーディフ教育大留学。帰国後、茗渓学園高ラグビー部を率い全国優勝。95年から日本ラグビーフットボール協会勤務。アジアラグビー会長を経て現在は同名誉会長。

=2019/01/14付 西日本新聞朝刊=

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