【激変時代に歴史の物差し】 宮本 雄二さん 宮本アジア研究所代表、元中国大使

宮本 雄二(みやもと・ゆうじ)さん=宮本アジア研究所代表、元中国大使
宮本 雄二(みやもと・ゆうじ)さん=宮本アジア研究所代表、元中国大使
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◆世界はどこへ向かうか

 歴史を知ることで初めて「現代」の意味が分かる。その「現代」は今、「大変な時代」を迎えているが、どれほど大変かも、歴史の物差しを使わないと分からない。

 世界は二つの意味で大変な時代を迎えている。

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 一つは、われわれが住み慣れた第2次世界大戦後の国際システムがきしみ始めたということだ。

 欧州にも米国にも反グローバリズムの波が起こり、内向きとなり一国主義の狭いナショナリズムが力を得ている。戦後の国際秩序が動揺し始めたのだ。そこに“異形”の世界大国、中国が登場し、米国はその台頭を抑え込む決意を固め、米中対立は国際関係の基本構造に組み込まれた。

 プーチン大統領のロシアも“先祖返り”を強め、ますます旧ソ連に似てきた。権威主義と自由民主主義とが、世界において影響力を競い合う時代となったという見方もある。そのような時に米国の大統領が権威主義好みなのは皮肉以外の何ものでもない。

 確かに米中の抗争は大きな衝突の可能性を秘めているし、民主主義と権威主義の対立構図は第2次大戦前夜を彷彿(ほうふつ)とさせる。時代はますます1930年代に似てきたという人もいる。29年のニューヨークの株価大暴落に端を発する大恐慌が世界経済を縮小させ、国内の経済危機が多くの国から理性を奪っていき“狂気の世界”が始まったのだ。

 今回の米中の貿易経済戦争が世界不況を招けば、世界がいつまで理性を保てるか分からなくなる。その危険性は現にある。だから米中を衝突させるわけにはいかない。

 だが、さほど悲観的になる必要もない。あの頃は「持てる国」と「持たざる国」、つまり現状肯定派と否定派との間の必死の抗争だった。今、中国とロシアは十分な国土を持ち、特に中国は現在の国際秩序から最大の恩恵を被っている。この面で中国は現状肯定派だ。それでも米中の主導権争い、地政学的対立とイデオロギー抗争は残る。米国は経済では手を打つかもしれないが、折に触れて中国を揺さぶるだろう。摩擦は続く。

 要は経済を悪化させないことだ。経済を悪化させずに米中の対立をコントロールできれば最悪の事態、つまり戦争は回避できる。現在の国際システムの動揺は、大きな変化にシステムが適合できなくなった結果だ。現行の国際秩序を放棄するのではなく、修正し改善することこそが目下の急務なのだ。

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 二つ目の理由は、急速に進化する技術革新にある。ものの本によれば、物質が構成する世界(アトム)と情報が構成する世界(ビット)において、急速な進化が生じていることが今日の変化の根源にあるらしい。科学技術の世界は、異次元の変化の時代に突入している。変化は格段に速く影響はあらゆる面に及ぶ。人類は未曽有の世界に足を踏み入れているのだ。

 人類は何度も技術革新による大変化を経験している。旧石器時代から今日まで、その連続と言ってよい。しかしながらこれから経験する変化のスピードは尋常ではない。人類の知恵が果たしてその速度についていけるのか、科学音痴の私にはわからない。だが人間が経験を消化し適応するには必ず時間が必要だ。人類はこの急激な変化に本当に対応できるのだろうか。

 第一の挑戦は人間の愚かさからくる。日本は“狂気の世界”から距離を置き、むしろ世界を正しい方向に引っ張りたいものだ。第二の挑戦は人間の生物学的構造が持つ弱点そのものとなる。この弱点を再び機械が補うことになれば人間は限りなくロボットに近づく。難しい時代に入ったものだと、しみじみ思う。

 【略歴】1946年、福岡県太宰府市生まれ。修猷館高-京都大法学部卒。69年に外務省入省。中国課長、アトランタ総領事、ミャンマー大使、沖縄担当大使などを歴任。2006年から10年まで中国大使。著書に「強硬外交を反省する中国」など。

=2019/01/21付 西日本新聞朝刊=

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