【レーダー照射問題】 藻谷 浩介さん 日本総合研究所調査部主席研究員

藻谷 浩介(もたに・こうすけ)さん=日本総合研究所調査部主席研究員
藻谷 浩介(もたに・こうすけ)さん=日本総合研究所調査部主席研究員
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◆日韓対立で得したのは

 昨年11月26日付の当欄に「2017年には、韓国人の7人に1人が来日した計算となる」と書いた。年が明けて18年の訪日外国人数の速報値が発表されたが、韓国からの来日者はさらに6%増えた。

 7人弱に1人、つまり韓国国民の15%に達している。15%とは、昨年1年間に欧米や中韓両国を含む海外のどこかに出国した日本人の比率と同じだ。

 両数字を比べても、韓国人が実によく日本を訪れていることがわかる。韓国には若者を中心に少なからぬ数の日本ファン層が出現し、繰り返し来日しているのだ。韓国に近い九州を訪れて楽しんだ経験の蓄積も、大きく寄与していると思われる。

 そんな状況にもかかわらず、韓国軍艦による自衛隊機へのレーダー照射問題は、日韓双方の言っていることがすれ違い、こじれる一方だ。

 ただし、そもそも自衛隊にはレーダー照射をでっち上げ、韓国にけんかを売る意味も必要性もない。第三者、例えば米国などから見れば「勢い余ってレーダー照射をした事を認めたくない韓国が、あくまでしらを切っている」と見えるだろう。

 つまり、韓国政府の国際的な信用が落ち、韓国軍の文民統制に対しても、疑問符が付く事態となったのではないか。それだけでなく、日米韓の軍事的協調の足並み乱れが公になったことは、北朝鮮や中国やロシアに対し、隙を見せていることに他ならない。

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 では結果として得をしたのは誰か。

 まずは中国だろう。日米韓の協調が乱れるほど、そこに付け込んで北朝鮮問題や通商問題でいろいろと立ち回る余地が大きくなる。

 中国には漢の時代から「夷(い)を以(もっ)て夷を制す」ということわざがある。夷とは中国から見た周囲の異民族の蔑称であり、そこには歴史的に日本も韓国も含まれている。「周囲の異民族同士が争えば、それぞれが弱って中国の利益になる」というわけだ。

 ちなみに儒教では、これを「覇道」の典型、つまり「王道」に反する自滅の道とするのだが、実際の中国史が覇道の勃興(ぼっこう)と自滅の繰り返しなのは周知のことである。「夷」同士でいがみ合う日本の「嫌韓派」や韓国の「反日派」は、中国の覇道から見れば飛んで火に入る夏の虫だ。相手は、日本が縄文時代だった頃に孫氏の兵法を編み出した国だ。脇が甘すぎないか。

 そして得をした第2は、韓国の文在寅(ムンジェイン)政権ではないか。日本がレーダー照射を平気ででっち上げるほど韓国に敵対的だと信じ込む一部の韓国人有権者の支持が固まり、政権支持率が上がるからである。

 また第3に、安倍晋三政権も支持率が上がっている。この問題がこじれる中、韓国に「毅然(きぜん)たる態度」を示すほど、一部の「嫌韓」有権者が政権支持を固めるからだ。

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 しかし、政権ではなく国として考えれば、韓国と日本の国益は、明確に損なわれている。

 これがさらにこじれて訪日韓国人が減り、彼らの日本国内での消費が減れば、日本への経済的打撃も大きい(他方でそうなっても韓国は、経済的には損をしない)。

 そうした種々の国益を総合的に考えたなら、あくまで事を公にせず、防衛省と韓国軍に第三者である米軍も交えて内々に交渉し、再発防止を約束させる方が良かったのではないか。

 外交や軍事面での摩擦をポピュリズムの燃料にするのは世界中にはびこる現象ではあるが、中長期的に見て国のためになったためしがない。中韓の行動はどうにもできないが、日本人だけでも強く自覚を持つべきだ。

 【略歴】1964年、山口県徳山市(現周南市)生まれ。88年東京大法学部卒、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。米コロンビア大経営大学院で経営学修士(MBA)取得。2012年1月から現職。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」など。

=2019/01/28付 西日本新聞朝刊=

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