【都市の公共交通】 藻谷 浩介さん

藻谷 浩介(もたに・こうすけ)さん=日本総合研究所調査部主席研究員
藻谷 浩介(もたに・こうすけ)さん=日本総合研究所調査部主席研究員
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◆福岡は世界に学ぶべき

 先般、福岡市中央区渡辺通の電気ビル本館で講演をしたときのことだ。福岡空港着の飛行機が30分も遅れたので、空港からタクシーに乗ったら、午前11時台だったのに、6キロ少々を30分近くかかってしまった。これなら地下鉄で天神に出て歩いた方が速かったかもしれない。

 福岡県太宰府市の九州国立博物館で講演をした後に、JR博多駅から新幹線で岡山に向かった時も少々困った。夕方なので車で最寄りのJR駅に出るには時間がかかると言われ、西鉄太宰府駅まで歩き、西鉄二日市駅で急行に乗り換えたが、終点の福岡(天神)駅で地下鉄に乗り換えたのでは、乗りたい新幹線に間に合わない。そこで西鉄春日原駅で降りて、JRの春日駅まで歩き、博多駅に出た。

 以上の経験に共通する問題は「福岡周辺はあちこち渋滞が激しいのに、電車網は必ずしも便利にできていない」ということだ。都市圏が急速に成長した過去数十年間に、逆に相当数の鉄軌道路線を廃止してきた、全国でもまれにみる地域である。路線バスは発達しているが、諸外国のようにBRT(専用道などを走行する大量輸送や定時性に優れたバス高速輸送システム)がないので、渋滞に巻き込まれることも多い。

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 福岡空港から電気ビルへは、地下鉄七隈線の博多駅延伸が完成すれば便利になる。だがそもそも路面電車の循環線を残していれば、博多駅から西進する、あるいは天神駅から南下する、というもっと分かりやすい行き方ができた。同じく循環線が残っていれば、博多駅や天神地区から博多港への移動も、特に観光客にはずっと便利だ。バスもあるが、バスと路面電車では外来者にとって、分かりやすさに雲泥の差がある。

 西鉄天神大牟田線とJR鹿児島線の乗り換えも、地下鉄空港線の開通時に廃止された筑肥線の姪浜-博多間が残っていれば、西鉄平尾駅で乗り換えられた。廃止は旧国鉄時代の決定だが、鉄道を残そうという動きは当時なぜ盛り上がらなかったのだろうか。旧甘木線が甘木鉄道となって機能している現状を見るにつけ、この区間や旧勝田線も残っていれば、便利に機能していたのではないかと思う。

 2007年の旧西鉄宮地岳線の東半分の廃止も疑問だ。沿線の宮地嶽神社も津屋崎の海岸も、外来者にとって魅力的な観光地だ。西鉄単体では存続が無理だったとしても、路盤を自治体保有とする上下分離方式など、工夫の余地はあったのではないか。

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 そもそも福岡は、住民も地元政治も伝統的に自家用車中心主義で、公共交通への関心が乏しくないか。象徴的だったのは、福岡市長が博多駅と博多港を結ぶロープウエー構想を、反対の多さゆえに取り下げた件だ。そこまで否定すべき構想だっただろうか。反対者には、自家用車を持たずバスを乗りこなせない外来者(観光客や出張者)への配慮というものが、どれだけあったのだろう。

 「アジアの福岡」を名乗る以上、アジアをはじめ海外の諸都市で公共の鉄軌道網の充実がどれだけ真剣に進められているのかを、議員諸氏は自分のお金と目で深く学ぶべきだ。とりわけLRT(次世代型路面電車システム)新設は地下鉄よりもずっと安く、バスよりも外来客に分かりやすいということで、世界中でめじろ押しだ。ロープウエーがだめだと言うなら、なぜ路面電車の循環線や呉服町線の復活が議論にならないのか。そんなことでは、高雄や上海、香港に取り残されかねない。

 平成も終わりである。そろそろ頭の中の「昭和の常識」を、21世紀の国際社会の常識にリニューアルしてほしい。

 【略歴】1964年、山口県徳山市(現周南市)生まれ。88年東京大法学部卒、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。米コロンビア大経営大学院で経営学修士(MBA)取得。2012年1月から現職。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」など。

=2019/03/25付 西日本新聞朝刊=

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