【おおいた再考】(7)人づくり 地域開く「熱」広がれ

辻馬車の御者として、由布院の魅力発信に取り組む佐藤宏信さん(左)
辻馬車の御者として、由布院の魅力発信に取り組む佐藤宏信さん(左)
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 人気温泉地ランキングで常に上位に入る由布院(由布市)。落ち着いた町並みと名峰・由布岳、盆地の田園風景といった自然の調和が魅力だ。魅力を引き立てる観光辻(つじ)馬車は、昨年までの馬車2台、御者2人の態勢から今シーズンは馬車、御者がそれぞれ増える。

 装具などを含め費用は約200万円。昔は馬車新調などの費用は銀行から融資を受けていた。今回は御者で観光協会理事の佐藤宏信さん(39)が代表となりクラウドファンディングを実施した。インターネット上で企画を紹介、寄付を募る仕組みで、約110万円が集まった。

 寄付者への特典には「馬車開きの際の打ち上げ参加券」「年間フリーパス」などを用意した。佐藤さんは狙いを「実際に由布院に来てもらい、さらにファンになってほしいから」と語る。ネットを入り口に「体験」「リピーター」とつなげていく。若い世代ならではの発想で、由布院観光をさらに勢いづける。

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 今では御者や協会の要として活躍する佐藤さんだが、当初から御者を志していたわけではなかった。

 地元の割烹(かっぽう)料理店の息子として生まれ、10代の頃は都会に憧れた。高校卒業後、進学で東京へ出たものの「当初から勉強するつもりはなかった」ため、1年で帰郷。当時70代だった元御者に声を掛けられた。

 バイクに乗っていた高校時代、辻馬車の馬に興味を示したことがあり、「御者にならんか」と誘われていた。当時は冗談程度に受け止めていたが、漠然と「ここで生きていく」と考え始めた頃でもあり、すんなりと聞けた。馬車を譲り受け、2000年に20歳で御者に。ファッション好きだった佐藤さんは、ドレッドヘアや白い上着姿で馬を扱い名物御者となった。

 観光に携わる中で、佐藤さんは溝口薫平さん、中谷健太郎さんという由布院観光の“カリスマ”と遊び、語り合った。溝口さんは初期の御者。辻馬車をはじめ、今や由布院の名物イベントとなった湯布院映画祭やゆふいん音楽祭、牛喰(く)い絶叫大会などを仕掛けたのは二人の世代だ。

 世代を超えて語らう中で、佐藤さんの故郷への思いは「何があってもここで暮らしていくという覚悟」に変わり、由布院を支える人材となった。

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 佐藤さんによると、由布院には「盆地学」という言葉がある。外から来た人を懐深く受け入れ語り合う中から、地域の未来を生み出す“化学変化”が起きる。そんな意味だ。

 16年、一度途絶えた「ゆふいん音楽祭」を若い世代が引き継ぐ形で再開した。辻馬車の新たな御者は沖縄県出身の30歳の若者だ。「地元んもん」「よそもん」にこだわらず地域を開く文化は受け継がれている。

 由布院に限らず、大分には各地で、地域の未来を語る文化があった。大山町農協(現日田市)のNPC運動をけん引した元町長の矢幡治美さん(故人)は地域づくりの先駆け「NPC運動」を始めるにあたり役場職員と宿直室で飲み、語り合ったという。農協メンバーはその後、知事公舎に乗り込んで地元産品を売り込んだ。県が設けた「豊の国づくり塾」には、そうした“わがまち”の将来を考える人々が集った。

 統一地方選が21日に始まる。縮小の時代、地域を開く「熱」を生み、広げられるか。政治の責任は重い。

 =おわり

=2019/03/20付 西日本新聞朝刊=

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