私たちを忘れないで 佐賀総局長 三村 龍一

 トランプ外交が中東紛争の火に油を注いでいる。在イスラエル大使館のエルサレム移転で中東和平は遠のき、イラン核合意からの離脱表明はイスラエルとイランの対立を激化させた。とばっちりを受けているのがパレスチナであり、本来関係のないシリアだ。

 イスラエルとイランは中東で覇権を争っている。トランプ米大統領の合意離脱表明の直後、イスラエル軍は、イランがシリアのアサド政権を支援するために送り込んだ部隊を攻撃した。アサド政権と反体制派の背後で、それぞれを後押しするロシアと欧米の対立も深まっている。4月には米英仏3カ国がシリアをミサイル攻撃した。政権軍が首都ダマスカス近郊で化学兵器を使用したことへの報復と主張するが、誰が化学兵器を使ったのか今もはっきりしない。

 どの国も自国に紛争を持ち込まれるのはごめんだが、内戦で荒廃したシリアでなら武力行使も許されると思っているかのようだ。こんな事態を彼女はどう思っているだろうか。あるシリア人女性のことが頭に浮かんだ。

 NPO法人「難民を助ける会」(東京)で働くラガド・アドリーさんは、2年前に来日して以来、地道に祖国の難民支援活動を続けている。福岡市で1年ほど活動した後、昨年10月には佐賀市を訪れて現地の状況や市民の暮らしぶりを語ってくれた。

 「毎日、絶望を味わっていますよ」。ネットのテレビ電話で取材に応じてくれたラガドさんは、寂しげな表情を浮かべた。母国からはずっとSOSが届いているが、日本国内の関心はなかなか広がらないという。「時々、世界から忘れられているような気持ちになります」

 紛争が始まってからパンの値段は15倍にはね上がり、子供の4割は学校へ行けなくなった。「ほとんどの家庭は肉が食べられません。学校を見たこともない子供も増えています」。講演では大学で学んだ日本語で話す。多くの人は「初めて聞いた」と驚くばかりだ。日本とシリアはあまりに遠く、戦場の生活は実感が湧かない。それでも日本人には期待しているという。

 まず、シリアで何が起きているのか、関心を持ってほしい。できれば経済的な援助もほしい。例えば千円あれば、ダマスカスで家族4人が1日食事できる。留学生の奨学金制度も拡大してほしい。そして何より、シリアのことを忘れないでほしい、と。

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 ▼みむら・りゅういち 福岡市出身。早稲田大文学部卒。1986年入社。社会部、熊本総局、北九州支社、東京支社報道部長、国際部長など経て現職。

=2018/05/18付 西日本新聞朝刊=

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