「潰す」まで闘う礼儀 論説委員 岩田 直仁

 作家の山際淳司さんが亡くなった1995年、最後の長編小説「タッチ、タッチ、ダウン」が出版された。中年男がアメリカンフットボールに再起をかける物語。こんな一節がある。

 〈相手を潰(つぶ)すまでたたかうことが「礼儀」として喜ばれることが、たしかにある〉

 「潰す」という言葉には、対戦相手への敬意がある。日本大アメフット部の宮川泰介選手も同じ思いで使ったことがあるはずだ。それが無残にねじ曲げられ、卑劣な反則行為に至ったのはなぜか。

 日大の側は、選手との意思疎通で乖離(かいり)があったと主張したが、関東学生アメリカンフットボール連盟は独自調査で事実上、反則の指示があったことを認め、監督とコーチの「除名」処分を決めた。

 調査報告書は、監督のワンマン体制とコーチや選手の思考停止、対戦相手に対するリスペクトの欠如、「昭和のスポ根的スパルタ指導」などを原因として挙げている。

 平成も終わりに差し掛かってまだ昭和か…と暗然とするが、選手の自主性を抑圧する風潮や、指導者と選手の間の絶対的な上下関係は、高校や大学の運動部に残っているという指摘は少なくない。

 宮川選手は会見で「(反則を)やらないという判断」ができなかった自分を恥じ、競技から離れる意向を示した。

 日大アメフット部の選手一同は、謝罪の声明を出した。監督やコーチの指示に「盲目的に従って」きたことを深く反省し、チーム改革に取り組む決意を示した。切々とした一文が胸を打つ。

 〈心から愛するアメリカンフットボールを他のチームの仲間たちとともにプレーできる機会を、お許しいただければありがたいと思っています〉〈もし可能であれば、私たちのチームメートにも再びチームに戻ってきてもらい、一緒にプレーできればと願っています〉

 山際さんの最初の短編集「スローカーブを、もう一球」は、こんな台詞(せりふ)で幕を閉じる。スポーツは公明正大に勝つことを教えてくれるし、威厳をもって負けることも教えてくれる-。挫折から立ち直れることも教えてくれる、と加えても、山際さんならきっと許してくれるだろう。

 日大の対応の鈍さが目立つ。第三者委員会の調査と指導陣刷新を急ぎ、選手とともに再建を進めてほしい。

 公式戦復帰が許されたグラウンドには、宮川選手もいることを願いたい。何より、反則で負傷した関西学院大の選手がこう語っている。「正々堂々とルール内でプレーし、また勝負できたらいい」

=2018/06/09付 西日本新聞朝刊=

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