子どもに心の食堂を 論説委員 岩田 直仁

 読書は人生を豊かにしてくれる。いわば「心の栄養」だ。住民ボランティアや自治会が各地で運営している「こども文庫」はさしずめ、「心の食堂」だろう。

 60年前の1958年、児童文学作家の石井桃子さんが東京・荻窪の自宅に「かつら文庫」を開設した。まだ、公立図書館が少なく、子ども向けの本を集めた施設がほとんどなかった時代である。

 絵本から文字の世界へ。さらに抽象の世界へと、無理なく、そして楽しく、子どもを誘っていくために、読書環境をどう整えるべきか-。

 かつら文庫で続けた「実験」の成果をまとめ、65年に石井さんが岩波新書から出したのが名著「子どもの図書館」。触発された全国の市民が「こども文庫」開設に乗りだし、90年代には全国約4千カ所に上ったともいう。

 その後、図書館の整備が全国で進み、ブームは沈静化したが、地道な活動を続けている文庫は今も数多い。

 例えば、福岡県古賀市には住宅団地の集会所で続く「たけのこ文庫」がある。今月8日、絵本作家の長谷川集平さんを招き、40周年記念の「絵本の講座」を市内で開く。

 活動の主眼は読書や読み聞かせを通して、心の成長を促すことだが、役割はそれだけではないようだ。

 「子どもの成長には、学校と家庭だけでなく、世代を超えて他人と交流できる第三の居場所が地域にあった方がよいと思う」。創立時から運営に携わっている草野三保子さん(70)の実感という。

 近く、団地に隣接して高齢者施設が開設される。「お年寄りと子どもの交流も企画してみたいな」

 深刻な子どもの貧困に胸を痛める人々が、温かな食事と憩いの時間を提供する「こども食堂」を開設している。その数は、全国で約2300カ所に上り、九州7県で200カ所を超える。

 「支援が必要な子どもが来てくれているのか」という不安の声をよく耳にする。気持ちは分かるが、たとえ貧困対策に直結しなくとも、活動の意義は必ずある。

 子どもが気軽に立ち寄ることができる「第三の居場所」を地域に幾つもつくる。大人が緩やかに子どもを見守る風潮を醸成する。それは貧困対策の土台となるはずだ。

 継続の秘訣(ひけつ)を草野さんに尋ねると、「子どもの笑顔と目の輝きに元気をもらうこと」と即答が返ってきた。

 子どもの笑顔が見たい。そんなシンプルな思いで、地域づくりに関わる大人が増えるだけでも、社会は少しずつ変わっていく。

=2018/07/06付 西日本新聞朝刊=

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