奥深きドカベンの記憶 編集委員 宮崎 省三

 46年続いた漫画「ドカベン」(水島新司作)が完結した。野球のルールなどよく知らない小学生の頃にテレビアニメが始まり、夢中になった。

 投手の配球の妙などリアルな描写やルールブックを駆使して練られた筋立て。一方で、柔道部出身で鈍足強打の捕手という主人公の山田、いつも口に葉っぱをくわえている悪球打ちの岩鬼、ピアニストの顔も持ち奇想天外な打法を繰り出す殿馬など個性的な登場人物たち…。人気スポーツといえば野球だった時代のバイブル的な漫画だ。

 そのアニメが始まった1976年、わが故郷の長崎県に漫画のような高校野球チームが現れた。サッシー、酒井圭一投手を擁した海星高校だ。ほとんど直球勝負の豪腕ぶりを、マスコミが当時話題となった英国の未確認怪物ネッシーになぞらえて命名した。サッシーと言えば、私たち世代には、あの女性アイドルではなく、酒井投手のこと。

 夏の地方大会(当時は西九州大会)で酒井投手が記録した16連続奪三振や51イニング連続無失点は、まさに怪物級。甲子園でも選抜優勝の崇徳(広島)を被安打2に封じ、チームは当たり損ねの内野安打で決勝点を奪った。さすがに葉っぱをくわえた選手はいなかったが、無精ひげ面で話題を呼んだ選手もいて、準決勝進出まで個性派集団の劇的勝利は続いた。その記憶にドカベンのストーリーがどこか重なり、ファンになった。

 95年の福岡南部大会で、こんな珍事があった。

 3回戦、八女工‐博多工の三回裏1死満塁で、八女工が狙ったスクイズは小飛球になりアウト。三塁走者はそのまま本塁に滑り込んだが、飛び出した一塁走者が刺され併殺が成立、チェンジとなった。

 ところがその後、八女工の監督が「併殺の間に三塁走者が本塁生還したプレーは有効」と主張し、六回になった時点で得点が認められた。ルールでは守備側が三塁走者を改めてアウトにしない限り、本塁生還が認められるという。

 当時、本紙の取材に、八女工の監督は「愛読しているドカベンに同様の場面があり、ルールを知っていた。ラッキーです」と話し、作者の水島さんは「やりましたか」と驚きつつ「読んでもらえば、また、いいことがありますよ」。現場で取材した先輩記者とデスクのやりとりを横で聞きながら、ドカベンの奥深さに感嘆した覚えがある。

 夏の全国高校野球選手権大会は今年、節目の100回を迎える。各地方大会の熱戦もこれから本格化する。水島さんも思い浮かばなかったようなドラマを期待している。

=2018/07/10付 西日本新聞朝刊=

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