「霧島」と「霧鳥」 社会部次長 相本 康一

 「霧鳥」-。遠くから見ると、一瞬だまされるかもしれない。大手焼酎メーカー、霧島酒造(宮崎県都城市)の「霧島(きりしま)」と思いきや、よく見ると、「霧鳥(きりとり)」である。

 昨夏まで駐在した北京で、中国人弁護士に耳打ちされて閲覧した中国政府公開の商標出願データベースで見つけた。他に酒造会社、三和酒類(大分県宇佐市)の「iichiko」に似た「ihokico」の出願もあった。いずれも字体はそっくりである。

 申請者は上海の業者。当時、何度も取材の電話をかけたが連絡は付かなかった。両社の商品は中国でも流通しており、申請の意図は推して知るべし、か。実際に商標登録されたかどうかは知らない。

 中国では、偽ブランド品から偽札、偽くまモンまで広く出回っている。「偽ブランド品の方が安くて丈夫だから好き」(20代女性)という声も聞いた。豊富な労働力を武器に「世界の工場」として成長してきたものづくりも、「オリジナル志向」より、言葉は悪いが「パクリ上手」のイメージが強かったように思う。

 ただ、かつての日本が欧米の製造業の模倣から独自の道を探ったように、風向きは変わりつつあるようだ。

 知的財産権の保護は米中貿易摩擦の焦点になったこともあり、中国政府も対策に力を入れ始めている。

 世界知的所有権機関(WIPO)などが7月に発表した2018年版「技術革新ランキング」で、中国は前年より順位を五つ上げ17位。初めてトップ20入りした。ちなみに日本は13位だ。スマートフォンのアプリ決済やシェアリング自転車といった新ビジネスも急成長している。

 最近は「ものづくりしないメーカー」が台頭している。例えばスマホの世界。メーカーは、ブランド運営とアフターサービスのみに力を入れ、組み立てや販売どころか設計さえも徹底的にアウトソーシングする新手法を取る。

 北京駐在時代に感じたのは中国ビジネスのスピード、勢いだ。日中両国の企業で働いた経験のある知人に言わせれば、「アイデアが浮かぶと、日本ではまず石橋をたたくが、中国ではたたく前に渡り始める。法令上問題ないかどうかは二の次」。

 失敗も多かろうが、巨大な国内市場を抱えているだけに成功すれば大きい。一発当ててやろうと、次々と優秀な人材や資金が集まっている。

 いずれアップルやソニーのような世界的ブランドが誕生するかもしれない。「霧鳥」のイメージで目を曇らせていると、隣国の実像を見誤る。

=2018/09/12付 西日本新聞朝刊=

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