池の水全部抜いた大濠 デジタル編集チーム 田代 芳樹

 悪臭を放ったり、外来種の魚が大量発生したりした池の水を抜き、どんな生物がいるかを検証する池干しを題材にしたテレビ番組が人気だ。

 普段は見られない光景を目の当たりにし、好奇心をかき立てられるからだろうか。

 あの時は、そんな余裕もなく、取材をするのに必死だった。今から30年前。大濠公園(福岡市)の池浄化工事のことである。担当記者として現場を走り回った。

 大濠公園は1929年に開設された、その中心部にある大きな池が特徴の福岡県営施設。黒田長政が福岡城を建築した際の外堀を利用して造園されており、水辺の景観が楽しめる全国有数の公園だ。

 完成以来、池底のしゅんせつは行われず、周辺の下水道整備も不十分。65年ごろから水質悪化が目立ち始めた。

 やがて汚泥が堆積して水は濁り、浅瀬でも底を見通せないほどに。アオコが大量発生して魚類も多数死ぬなどし、悪臭も放つ。池の浄化対策が大きな課題となっていた。

 ただ、浄化には多大な予算が必要とあって、池の埋め立てさえ検討された。危機感を抱いた周辺住民らが85年、公園を守る市民の会を発足させて県に10万人分の署名を提出する。ついには行政を動かし浄化工事の着手となった。

 まず池の水をすべて抜き、汚泥を天日乾燥させた後で固化剤で処理し、池底に掘った穴に埋設した。掘削時に出た砂を活用して池底を整地し、水を全面的に入れ替えた。池の魚は他の池や川に放し、アヒルなどは公園内で飼育するなど生き物にも配慮した。

 池底からは、福岡大空襲で落とされたとみられる焼夷(しょうい)弾の不発弾も多数見つかった。信管が付いたままのものもあった。平和な公園で発見された戦争の痕跡に思わず息をのんだ。時には汚泥に足を取られながら、工事関係者に話を聞いたことを思い出す。

 当時としては珍しい環境保全のための公共事業で、「前代未聞の大掃除」と注目を集めた工事は89年の春に終了。91年には池の水質を維持する浄化施設も完成した。汚泥の池は、再び市民の憩いの場として生まれ変わった。

 休みの日、久しぶりに公園を訪れた。

 池を巡る周回路は、今や近郊の市民ランナーにとって聖地となっており、ジョギングをする人でにぎわう。散策する人、水路で遊ぶ子ども…。思い思いに楽しむ姿も含めた公園の風景に癒やされた。

 市民の熱意で再生した大濠公園。人々に愛され続ける限り、再び「緊急SOS! 池の水ぜんぶ抜く大作戦」が展開される心配はなさそうだ。

=2018/10/19付 西日本新聞朝刊=

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