少年菅原道真は名探偵 編集委員 上別府 保慶

 受験シーズンが終わり、学問の神様、菅原道真も合格祈願を聞き届ける忙しさから解放され、一息ついている頃ではあるまいか。試験によく出る年代に、道真が遣唐使の廃止を建議した894年があり、「道真が白紙(894)に返す遣唐使」と、語呂合わせで覚えたのが懐かしい。

 この頃の九州は、朝鮮半島の海賊や流民が押し寄せた時期だった。893年には武装した集団が、肥後国飽田郡(熊本県)に侵入して民家に放火し、肥前国松浦郡(佐賀県)へ向かった記録がある。翌年には対馬が襲われた。

 朝鮮の新羅王朝は内乱続きで民が疲弊していたし、かつて栄華を誇った中国の唐帝国も滅亡の淵にあった。遣唐使を送ろうにも、東アジアは混乱のさなかにあった。

 太宰府天満宮(福岡県太宰府市)の宝物殿で、少年時代の道真を描く漫画「応天の門」の原画を集めた特別展=写真=が催されている。受験を終えた方々にも、せっかく詰め込んだ知識が白紙に返る前に、ご覧になってほしい。

 「応天の門」は、新潮社の漫画誌「月刊コミック@バンチ」に連載中。平安京の怪事件を、10代の学生だった道真と、色男の殿上人、在原業平がコンビを組み解決する物語だ。作者は灰原薬(はいばらやく)さん。描線は女性らしい流麗なタッチだが、硬派な展開はホームズの探偵小説を思わせる。時代考証も行き届く。漫画が好きな東京大史料編纂(へんさん)所の本郷和人教授が監修を務めている。

 平安時代の貴人コンビが事件に立ち向かう漫画には、岡野玲子さんの「陰陽師(おんみょうじ)」がある。こちらは妖怪が現れ、九州に左遷されて死んだ道真も悪霊となってたたるのに対し、「応天の門」の道真少年は、魔物の存在を認めないリアリストとして描かれる。

 事件の背後には必ず人間のたくらみがある。例えば、権力を握る藤原氏は、陰謀や身内の不祥事を、もののけの仕業にしてカムフラージュするが、道真少年は中国の書物で得た知識を基に真相を見破る。“ワトソン役”の業平は冷徹な観察眼に驚嘆しつつも、そこは20歳年上の世慣れ人。処世術で道真少年の暴走をいなすのだ。

 応天門の変で流罪になる伴善男など、歴史上の人物が続々と登場するこの漫画。今から受験勉強で頭が痛くなるという方にもお薦め。特別展は4月14日まで。

=2019/03/21付 西日本新聞朝刊=

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