生き残りへ「脱中国」 試練の台湾~蔡英文政権1年(下)

黄天麟氏
黄天麟氏
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 台日文化経済協会会長・黄天麟氏に聞く

 【台北・中川博之】中国と欧州を結ぶ経済圏構想「一帯一路」やアジアインフラ投資銀行(AIIB)など、世界経済の関心が中国に向かう中、台湾の蔡英文政権は中国依存型経済からの脱却を目指し、東南アジアやインドとの貿易、交流を進める「新南向政策」に取り組んでいる。

 「大は小を吸収する。輸出の4割を占める中国(香港含む)への依存度を減らさないと、台湾経済は中国にのみ込まれてしまうだろう。台湾は1980年代から90年代にかけて急速な経済成長を果たした。しかし2002年、民主進歩党(民進党)の陳水扁政権が主要産業の対中直接投資を解禁すると、パソコンなどハードウエア産業の9割以上が中国に移転。台湾の経済成長率が伸び悩んだ一方、中国経済は急成長を果たした。当時は数倍だった中国と台湾の国内総生産(GDP)の差は今、20倍に開いている」

 台湾で過度な中国依存への危機感が高まったのは14年春。国民党・馬英九政権が中国と合意したサービス貿易協定撤回を求め、学生らが立法院(国会)の議場を占拠する「ヒマワリ学生運動」が発生。中国との統一に否定的な民進党の蔡政権が誕生する原動力となった。

 「中国との経済的結び付きを強めれば、賃金が安い中国への投資が増え、その分、台湾への投資は減る。恩恵を受けるのは中国に進出する大企業ばかりで、台湾経済全体にとってはマイナスだ。実質平均賃金も15年前から増えていない」

 蔡政権発足後、台湾を訪れる中国人観光客は大幅に減少。今年1~3月は前年同期比48%減の50万3千人にとどまった。

 「中国以外からの観光客は増えており影響は限定的だ。蔡政権になって経済成長率はマイナスからプラスに転じ、失業率も改善している。実はこれまでも中国との関係が良くない時の方が台湾経済は好調だった」

 蔡政権は賃金引き上げと労働時間短縮を図るために労働基準法を改正し、週休2日制を義務付けた。これに対し、企業は「人手が足りなくなり、コストが増える」と猛反発。労働者からも「残業時間が制限され、収入が減る」と批判が出ており、政府は見直しを迫られている。

 「企業の収益が増えなければ賃金も休みも増やせない。無理して週休2日を義務付けるのではなく、企業がもうけられる環境をつくることが先だ」

 「脱中国依存経済」以外にも、難しい課題を抱えている。25年までに原発を廃止し、太陽光や風力を生かした自然エネルギーで代替する計画だ。

 「日本に比べて狭く、人口が密集している台湾で原発事故が起きれば、何百万人もの避難者が出るが、避難できる場所がない。原発ゼロは取り組まざるを得ない課題だ。ただ原発の代わりを全て自然エネルギーで賄えるかどうかは疑問。今の技術ではコストがかかりすぎる。水素発電などの技術革新に期待するしかないだろう」

 黄 天麟氏(こう・てんりん) 台湾の第一銀行の頭取や会長、国家安全会議諮問委員を歴任。現在は台日文化経済協会会長や総統府国策顧問を務める。87歳。


=2017/05/20付 西日本新聞朝刊=

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