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王朝期の器 再現挑む 陶芸家・金栄吉さん 窯跡から陶片、土収集 作陶の道 有田で学ぶ

歴史的価値のある窯跡の陶片などを収集し、当時の陶器の再現に取り組む金栄吉さん
歴史的価値のある窯跡の陶片などを収集し、当時の陶器の再現に取り組む金栄吉さん
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釜山窯で陶器作りに挑む有田焼の14代李参平さん
釜山窯で陶器作りに挑む有田焼の14代李参平さん
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 韓国・釜山市北東部の機張(キジャン)郡に異色の陶芸家がいる。工房「釜山窯」を営む金栄吉(キムヨンギル)さん(51)だ。地元に残る朝鮮王朝時代の窯跡から陶片や土を収集し、成分などを調査。その情報を基に当時の陶器を再現している。若い頃、一度は陶芸とは別の道を目指して日本に渡り、挫折。学び直す場に選んだのは佐賀県の有田窯業大学校だった。陶芸家の枠を超え、埋もれた歴史を掘り起こす挑戦を続ける。 (釜山・竹次稔)

 9月末、機張郡内にある窯跡を金さんと訪れた。そこでは17世紀に陶器が作られていたという。大きな道路から少し山に入ると、広範囲に陶片が散乱していた。行政などの遺跡調査が手つかずの私有地だ。

 朝鮮王朝初期の15世紀に税金代わりに陶器を納めていた窯跡が見つかるなど、機張郡は古くから窯業が盛んだ。一帯では約30カ所の古い窯跡が見つかっている。

 金さんは2007年から3年間、国から研究費を得て、機張郡内の窯跡に残る陶片を収集するほか、窯跡周辺に分布する陶芸の材料に適した土を採取、分析する研究に取り組んだ。

 集めた陶片は年代や成分、作製当時の色彩などを徹底的に調べてデータベース化した。ある皿の模様が貝殻や鹿の毛で施されていたことを突き止め、その道具を自分で再現したこともある。採取した約180種類に及ぶ土は瓶詰めし、工房に並べて保管している。

 現在、それらの研究成果を土台とした創作活動に打ち込む。春になるとあちこちの窯跡へ行き、土を採取。土を足で踏んでこねたり、複数種類の土を混ぜたりして、数カ月掛けて材料となる土を作る。9月ごろから茶わんを中心に約千個の器を作り、10月末に伝統的な窯で一度に焼く。だが満足のいく作品は10個も生まれない。気に入らないものはすべて廃棄する。

 韓国でも、今は土などの材料は業者から購入するのが一般的。金さんの手法はとても効率的とは言えない。だが「古い時代の魅力に出会い、陶芸人生が面白いものに変わった」。一連の活動が認められ、15年には金さん自身が韓国の無形文化財に指定された。

    ◆    ◆

 両親ともに代々続く陶芸家の家系。半世紀前に両親が機張郡に移り住んだ。

 中高生の頃は後を継ぐつもりだったが、貧しい生活をさせたくないと両親が反対した。22歳の頃、当時、はやり始めていたコンピューター関連の仕事に就こうと日本に留学。仙台市の専門学校に入学した。

 だが学んでみると、コンピューターはどうにも性に合わない。1年で学校を辞めた。仙台市に残って日本語を学ぶうち、やはり心は陶芸の道に向いた。一念発起して有田窯業大学校に入学。3年間、技術や陶芸の歴史などを学んだ。韓国から訪れる学芸員の通訳アルバイトなどをしながら、窯跡の発掘方法も習得した。

 31歳で帰国。前後して、機張郡で歴史的価値のある窯跡が発見された。導かれるように、窯跡の研究と古い時代の陶器を再現する仕事に没頭した。

 機張郡には豊臣秀吉が朝鮮に出兵した文禄・慶長の役の時代に築かれた城跡が残り、この地から多くの陶工が日本へ連行された。江戸時代には日本向けの茶わんが盛んに作られるなど、日本とのゆかりは深い。

 金さんは「作品だけでなく、歴史も追いかけている。この地域の窯業はどのようなものだったのか、日本との関係はどうだったか。総合的に表現し、次世代に伝えたい」と話した。

 ●14代李参平さん 原点探る

 10月中旬、有田焼の14代李参平(金ケ江三兵衛)さん(56)=佐賀県有田町=が数日間、金栄吉さんの工房「釜山窯」で陶器作りに取り組んだ。

 初代李参平は有田町で陶石を発見して日本初の磁器を焼いたと伝えられ、有田焼の生みの親とされる朝鮮人陶工。金ケ江さんと金さんは2年前、日韓交流の展示会で出会った。金ケ江さんは初代が手掛けた有田焼の復元に取り組んでおり、2人には共通点があった。

 金ケ江さんは土から陶器を作り上げる金さんに感銘を受け、「初代は磁器だけでなく、陶器作りも朝鮮でやっていたはず。当時の技術を学び、有田に持ち帰りたい」と今年、釜山窯で作陶を学ぶことにした。

 有田焼は昨年、創業400年を迎えた。金ケ江さんは「今後も有田焼を発展させるには新しい挑戦が必要。401年目の今年、釜山に来たのはその一歩です」と話した。


=2017/10/30付 西日本新聞朝刊=

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