働き方改革 海外では

株式市場の動きをパソコンで確認する成果さん。四六時中、画面と向き合う毎日だ
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クリスマスツリーが飾り付けられた自宅で、週末のひとときを過ごすイーグルさん家族
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高額購入者向けの会員制ラウンジで顧客に商品説明をする朱智雲さん(左)=韓国・釜山市のロッテ百貨店釜山本店
高額購入者向けの会員制ラウンジで顧客に商品説明をする朱智雲さん(左)=韓国・釜山市のロッテ百貨店釜山本店
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タイの首都バンコクの人材紹介会社で、総務部長を務めるスパガンヤーさん(左)
タイの首都バンコクの人材紹介会社で、総務部長を務めるスパガンヤーさん(左)
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 「1億総活躍社会」を掲げ、多様な働き方改革が叫ばれる日本。過酷な長時間労働や正規・非正規雇用の待遇格差、出産や育児を巡る環境の不備など克服すべき課題は山積している。では、海外はどうなのか。西日本新聞特派員が各国のサラリーマンの「働き方」事情を報告する。

 ●中国・北京 モーレツ社員 成長支え

 中国・北京市内の証券会社に勤める成果さん(27)は、株式市場を分析して投資戦略を練るアナリスト。ハードな働き方は日本の高度成長期の「モーレツ社員」をほうふつとさせる。

 朝8時半に出社すると、すぐに上海と深〓(〓は「つちへん」に「川」)の株式市場をチェックする。毎朝の会議で中国経済の見通しや株・為替の動向について報告。利上げなどのニュースが入れば、社内向けのリポート作りに追われる。帰宅は夜10時ごろ。日付をまたぐこともざらだ。週休2日だが、仕事が立て込んだ昨年10、11月は全く休めなかった。「一日中パソコンとにらめっこ。仕事が好きじゃないとできない」

 大学卒業後に渡米し、ボストン大大学院を経てニューヨークの投資ファンドに入社。2年前から提携先である中国国営の証券会社に出向している。「ニューヨークでは中学の同級生が20人ぐらい働いている。みんな深夜まで頑張っている」

 ともに大学教授の両親の都合で4歳から9歳まで鹿児島市で暮らした。中高生の頃は清潔で暮らしやすい日本での就職を希望した。気持ちが変わったのは名古屋市の企業でインターンとして働いた大学3年の時。単純作業も手を抜かない日本人の勤勉さに驚いたが、一方で任された仕事以外は口出しできない雰囲気に閉塞(へいそく)感を感じた。「自分の創造力を生かせる環境で成長したい」と飛び込んだのが米国の金融業界だった。

 出向中の証券会社は国営とはいえ、副社長はやり手の37歳。あくまで実力主義だ。成さんの年収は約60万元(約1千万円)。北京の非民間事業所の平均年収は約12万元で、成さんはその5倍だ。その分、重圧も大きい。投資戦略が外れて損失を招くと厳しく責任を問われる。「精神的にきついけど、やりがいは大きい」

 社内の中国人スタッフには手を抜く若手もいる。だが「怒るのは時間の無駄。職務態度は教えられるものじゃない」と割り切る。中国では、共産党幹部の子どもがコネで有力企業に就職するケースも多い。成さんはそれも「経済規模が大きくなっても、まだ発展途上の国。気にしても仕方ない。最近はコネが通用しない企業も増えている」と意に介さない。

 将来、自分の投資ファンドを立ち上げるのが目標だ。実家は裕福で、1人暮らしの今の住まいは親が購入した超高級マンション。そんなに頑張らなくても良いのでは…。「自分の価値を示したい。それができなければ人生の浪費じゃないですか」。成長著しい中国経済はこんな若者たちに支えられている。

 (北京・川原田健雄)

 ▼年間60万人が過労死 中国では過酷な残業などで命を落とす「過労死」が年間60万人に達する。中国メディアによると、被害者は近年、肉体労働者から頭脳労働者に移っており、若年化の傾向にある。業種では情報通信や広告、メディア、医療、金融にも広がっているという。中国の法律は労働時間を1日8時間、毎週平均44時間を超えてはならないと規定。有給休暇の取得を促す法律も定められているが、中国メディアは「一部の企業にとってはただの紙切れになっている」と指摘。法に基づく労働者の権利保護の徹底を訴えている。

 ●米国 家族に合わせて柔軟に

 米首都ワシントンのホワイトハウスから歩いて10分の中心部に、ナサニエル・イーグルさん(36)が勤めるソフトウエア開発会社はある。大学卒業後、グラフィックデザイナーを経て、ソフトウエア開発の技術者として働いてきた。その間、転職を繰り返し、今の職場は5カ所目だ。

 「この業界で昇進していくには転職は当たり前。自分の連絡先をネットに公開すれば他社から毎週のように接触がある」。2年前に入った今の会社も会社側からの誘いだった。

 妻レベッカさん(36)、長男アレクサンダー君(5)と3人暮らし。ワシントンは住居費をはじめ物価が高く、「共働きでないと暮らすのが大変」。レベッカさんも全国チェーンのスーパーで店長として働く。

 レベッカさんの仕事は拘束時間が長く、不規則だ。イーグルさんの業界では残業が当然の会社もあるが、今の会社は社員のワークライフバランスを重視し、残業が少ない。子育てに合わせて柔軟に働きたいイーグルさんにとって、その点も転職先として今の会社を選んだ決め手の一つだった。

 妻の勤務に合わせ、夫婦の役割分担は日々変わる。妻は早朝出勤が多く、学校に通う息子の朝の世話は夫の担当だ。息子を学校に送り、午前9時ごろ出社。妻が息子を迎えに行ける日は午後6時ごろまで働く。自分が迎えに行く日は5時に退社し、夕食も作る。

 週末に妻が出勤する日は、息子と囲碁センターに行き、趣味の碁を楽しむ。「子育てを妻任せにせず、父親として深く関わることができている」とほほ笑む。

 同世代には10年前のリーマン・ショック以降、職に恵まれず長時間労働せざるを得ない人もいる。高額な医療費に苦しむ人も多い。「私も妻も不況の影響はほとんどなかった。妻の勤め先には充実した医療保険もある。私たちは幸運だ」

 それでも安穏としてはいられない。イーグルさんの業界は年功序列とは正反対。ベテランになるほど、知識は「時代遅れ」と見られがちで、競争は激しい。

 1年ほど前から週2日、勤務を半日で切り上げ、空いた時間を独自のアプリ開発に費やしている。これまでに囲碁の戦い方について愛好者が意見を交わすアプリなどを開発し、無料で公開してきた。自分の技術向上が目的だ。

 半日勤務の分、給料は2割減った。だが「会社の仕事をしているだけでは、取り残されてしまう」。将来の生活の安定を見据え、自分を磨き続ける。

 (ワシントン田中伸幸)

 ▼育児休暇充実せず 米国では子育て中の夫婦が共にフルタイムで働く割合は46%(2015年、ピュー・リサーチ・センター調べ)に上るが、育児休暇制度は充実していない。有給休暇を組み合わせて育児休暇に当てても、1~3カ月程度での職場復帰が珍しくないという。保育施設の利用料やベビーシッターなどの人件費は高額で負担は大きい。米国に巣くう差別は職場にもあり、ある団体に勤める非白人職員は「表向きは『多様性』を掲げるが職員の9割が白人」と明かす。フルタイムの女性の平均賃金が男性より約2割低いとの調査結果もある。

 ●韓国・釜山 キャリアと育児を両立

 韓国・釜山市中心部の西面(ソミョン)に構えるロッテ百貨店の釜山本店。高額の購入層に商品提案するパーソナルショッパーという花形の専門職を、朱智雲(ジュジウン)さん(44)は10年間務めてきた。他の百貨店を見渡しても、釜山でこの職種に就く人は、朱さんを含め3人しかいない。

 大学卒業後、最初に就職したのは免税店。「初めは『いらっしゃいませ』も満足に言えず、笑われました」。そこで高級時計などブランド商品の販売ノウハウをたたき込まれた。

 26歳で結婚、出産して退職。子育てに専念したが、ブランド商品を販売する業界で働く憧れは消えず、仕事を続けることを決意。出産から3年後、イタリアに本社があるブランド品販売会社の釜山営業所に再就職することができた。

 外資系の会社は残業が少なく、男女の賃金格差も小さい当時の韓国では珍しい職場。そこで販売員の売上管理などの事務職に就いた。仕事ぶりを評価したロッテ関係者の薦めで、今の会社へ転職。以来、パーソナルショッパーを続ける。

 現在、部下3人と共に担当する顧客は約250人。一人一人の好きなブランドや衣服のサイズは全て頭に入っている。定時勤務は午前9時半から午後7時半だが、1時間早く出社し、30分ほど残業する。忙しくて昼食を取れない日も多い。

 「顧客に最適な商品を提供する」を信念に仕事をしてきた。そのため上司と衝突したこともある。5年前、食事などの接待攻勢で高額商品を売り込むよう求められた。顧客の好みなどを無視するやり方に耐えられず、辞表を出した。慰留されて踏みとどまったが、信念は曲げなかった。

 信念を裏打ちするのは努力だ。宝石を取り扱う資格を取得するため約1年間、休日にソウルにある学校へ通った。釜山の大学院で2年間、経営学も学んだ。

 家事も手を抜けない。公務員の夫河泰旭(ハテウク)さん(45)と高校3年の長男永秀(ヨンス)さん(17)の3人暮らし。出勤前に手早く家族の朝食を用意し、帰宅後にみんなの夕食を作る。忙しい夫もゴミ捨てなどを手伝うが、家事の大半は朱さんがこなす。

 会社は社員の仕事と家事の両立を図るため、週2日を早期退社日にしたり、一定時刻を過ぎるとパソコンを使えなくしたり、先進的な取り組みを進める。「会社の理解がなければ、子育てとの両立は難しかった」

 キャリアアップと子育てを両立させる朱さん。「頑張る両親の姿を息子に見せたい。その一心です」。息子の存在が力の源だ。

 (釜山・竹次稔)

 ▼長時間労働が問題に 韓国では長時間労働が問題となっている。1人当たり年間平均労働時間は2069時間(2016年)で、経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国中、メキシコに次いで2番目に長く、日本の1713時間を上回る。韓国の勤労基準法は、労働時間の上限を週40時間、残業はさらに同12時間までと定めているが、業種による適用除外が多い上、休日労働がこの上限(合計52時間)の対象外になっていることが背景にある。文在寅(ムン・ジェイン)政権は仕事と家庭の両立を目指し、上限時間の引き下げなどを進める方針だ。

 ●タイ・バンコク 女性躍進へ社会が協力

 タイの首都バンコク。人材紹介会社で働くスパガンヤーさん(36)の朝は早い。家を出るのは午前6時。娘のナパチヤーちゃん(5)を幼稚園に送り届けるためだ。始業1時間前の午前7時半には自分のデスクに着く。「いつもバタバタ。娘を抱いてバイクタクシーに乗ることもあります」

 職場では総務部長として3人の部下を持つ管理職だ。会社を経営する夫のシャワリットさん(36)と共働き。出産前日まで働き、規定通り3カ月の産休の後、職場復帰した。

 一般的なタイ企業に勤めるサラリーマンの初任給は1万5千バーツ(約5万1千円)程度、30歳でも3万バーツくらいだ。一方、子どもを私立の幼稚園に入れると半年で5万バーツ、保育所も1カ月で1万バーツかかる。

 「夫の稼ぎだけで育てるのは厳しい。娘を良い学校に入れるためにも、仕事を辞めるという選択肢はなかった」。それでも娘を1歳半で保育所に預けるまでは大変だった。

 しかし、タイでは子育てに困った時には頼もしい「助っ人」がいる。夫婦とも地方出身だが「実家の母と、夫の母親が半年ずつ、バンコクに来てくれたんです。両方とも無理なときは親戚が助けてくれた」

 都会で働く女性に代わって、実家の親が孫の面倒をみるのは当たり前。実家に子どもを預けるケースも多い。子育てはできる人がする、という発想だ。

 家事に対する考え方も日本とは違う。「休日は料理を作るけど、平日は外食ばかり。娘は3食とも幼稚園と延長保育の保育所で済ませます」。屋台などが発達しているため、家で調理するより安い。外食の方が合理的というわけだ。

 それでも時にはピンチが訪れる。幼稚園が学級閉鎖になり、家族の都合も悪い。そんなとき、子どもを連れて行くのは職場だ。

 「会社によっては駄目なところもあるけど、私の職場は子連れOKなんです。娘に微熱があった時はデスクの下で寝ていました。騒がなければ大丈夫。忙しいときは手の空いた同僚が見てくれる。困ったときは助け合わないと」

 職場でも公共の場でも、子どもの存在に迷惑そうな顔をする人は、まずいない。社会全体で子育てを行うという文化が、タイの女性の躍進を支えている。

 スパガンヤーさんに、日本では職場に子連れは許されないんですよ、と告げると「そうなの」と気の毒そうな顔をした。そして、言った。「何があっても生きていけるように、私は働きます。これからも」

 (バンコク浜田耕治)

 ▼管理職に女性37% 国際会計事務所のグラントソントンが世界の企業トップ5000人以上を調査した報告書(2016年)によると、企業の管理職に女性が占める割合はロシアが45%で首位。タイは37%で4位だった。日本は7%で最下位。管理職に女性がいない企業の割合もタイは21%にとどまり、日本は73%に上る。一方、タイでは高等教育(大学など)の在学者数は女性(58%)の方が男性(42%)より多い。男性は軍の士官学校や仏門に入るケースもあるため一概に言えないが、日系企業幹部は「タイの女性は自立心が高く勤勉だ」と指摘する。


=2018/01/08付 西日本新聞朝刊=

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