「脱石炭」号令で燃料不足 強権的青空に凍える地方 景観も強制、「つけは弱者」

天然ガスが供給されないため、近くの林から持ってきた枝などを燃料にしているという女性=河北省
天然ガスが供給されないため、近くの林から持ってきた枝などを燃料にしているという女性=河北省
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 中国・北京市の中心部から南西に約60キロ。れんが造りの住居が集まる河北省の馬坊村を歩くと、壁をはう黄色のパイプが目に入る。「天然ガスの配管だよ。この冬から使えるようになったんだ」。農家の男性(73)がうれしそうに話した。

 深刻な大気汚染に悩まされてきた中国は、習近平国家主席(共産党総書記)の号令下、昨秋から「青空防衛戦」を展開。政府は石炭から天然ガスへの切り替えを北京市や河北省などに指示し、石炭の使用や取引を厳しく制限している。

 「以前は石炭の煙で炊事場が真っ黒になった。ガスのおかげで便利になり空気もきれいだよ」。男性は真新しい家庭用ガスボイラーの前で胸を張った。

 対策の効果は数字にも表れている。北京では1月、微小粒子状物質「PM2・5」の月間平均濃度が大気1立方メートル当たり34マイクログラムとなり、測定開始以来初めて国内基準35マイクログラムを下回った。2017年の年間平均濃度も前年より2割減った。

 ただ、性急な脱石炭はひずみも生む。馬坊村から約3キロ離れた〓四村。「配管は通ったけど、肝心のガスが来ない」。家族4人で一軒家に暮らす60代女性はぼやいた。氷点下に冷え込む夜間は石炭を使って暖を取りたいが、政府の方針でどの店も販売していない。仕方なく近くの雑木林から枝などを拾い、燃料に充てているという。

 農家の40代女性は「昨冬から残っている石炭が切れたらどうしよう…」と困惑顔。同省の小学校では暖房がないため日差しのある戸外で授業を行い、児童が凍傷になったと報じられた。「都会の青空のために田舎が犠牲になっている気がする」。女性は恨めしそうに空を見上げた。

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 高層ビルが林立する北京市中心部。多くのビルの壁にしみのような汚れが目立つ。昨年11月末に出された“看板撤去令”によってできたものだ。

 北京市は都市美化政策の一環として、建物に掲げられた看板や広告約2万7千枚の撤去を指示。各地で商業ビルやホテルにクレーン車を横付けし、看板を外す様子が見られた。「上(政府)から言われたことはやるしかないでしょ。撤去費は誰が負担したか? 答えたくない」。ビルの壁に看板跡が残るホテルの関係者はぶっきらぼうに答えた。

 あらゆるビルの看板を外した結果、街を歩く際の目印がなくなったという市民からの不満が続出。看板の跡が残り、見栄えも悪くなった。結局、市は12月に一部で看板の掛け直しを認めるなど事実上の撤去停止に追い込まれた。

 批判を浴びた北京市の政策はこれだけではない。昨年11月に起きた北京郊外の大規模火災後、市は違法建築の撤去を強制的に推進。住宅や職場を取り壊された出稼ぎ労働者らが行き場を失い、インターネット上で「弱い者いじめだ」との書き込みが相次いだ。

 一連の指揮をしたのは、北京市トップの蔡奇・市党委員会書記。習氏が福建、浙江両省に勤務していた頃の部下で、昨秋の党大会を経て党トップ25の政治局員に異例のスピード昇進を遂げた。北京市の強権的な手法の背景には、習指導部が掲げる首都整備計画を実現して評価を得たい蔡氏の焦りがあったと指摘される。

 トップダウン方式の中国は政策が大胆でスピード感もあるが、失政には歯止めをかけにくい。「中央の指導者は良くても、部下はろくな仕事をしない。つけはいつも立場が弱い俺たちに回ってくる」。違法建築で立ち退きを迫られたという高齢男性が吐き捨てるように言った。 (北京・川原田健雄)

=2018/03/09付 西日本新聞朝刊=

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