北朝鮮「完全非核化」を約束 米朝首脳が共同声明 米、事実上の「体制保証」

 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は12日、シンガポール南部セントーサ島のカペラホテルで史上初の米朝首脳会談を行い、「シンガポール共同声明」に署名した。トランプ氏は声明で「安全を確約」として北朝鮮に事実上の体制保証を与え、正恩氏は4月の南北首脳会談の板門店宣言を再確認して「朝鮮半島の完全非核化」に取り組むことを約束した。トランプ氏は記者会見で北朝鮮との対話継続中は米韓合同軍事演習を中止することも表明。両首脳は長年にわたる敵対関係の改善に強い意欲を示し、朝鮮半島に残る冷戦構造の終焉(しゅうえん)につながる重大な局面を迎えた。

■トランプ氏「拉致を提起」

 ただ、最大の焦点だった北朝鮮の非核化について、米側が求める「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の文言は声明に盛り込まれなかった。非核化の具体的な行程や検証方法では合意しておらず、実効性に課題を残した。

 終了後に記者会見したトランプ氏は会談で正恩氏に日本人拉致問題を提起したと述べた。共同声明には明記されていないが「(北朝鮮が今後)取り組むだろう」と語った。正恩氏の反応には言及しなかった。

 完全な非核化についてトランプ氏は会見で「技術的に長い時間がかかる」と説明。今後も協議を継続することで合意したといい、来週にもポンペオ国務長官やボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が非核化の詳細について、北朝鮮側と協議すると述べた。

 またトランプ氏は「正恩氏は速やかに(非核化に)着手するだろう」と指摘。正恩氏はミサイルのエンジン実験場を近く破壊すると約束したと説明した。

 会見でトランプ氏は米韓合同軍事演習の中断を表明する一方、在韓米軍の即時削減には否定的な見解を示した。国際社会による経済制裁は「核の問題が重要でなくなった段階で考える」と述べ、当面継続する考えを示した。

 声明で両首脳は朝鮮戦争の戦没米兵の遺骨収集で協力することを確認したが、休戦状態が続く同戦争の終結は盛り込まれなかった。

 トランプ氏は適切な時期の訪朝に意欲を示し、正恩氏をホワイトハウスに招待すると述べた。正恩氏は会談で「この場に集い向かい合ったのは、平和への前奏曲だと思う」と言及。共同声明の署名式では「世界は重大な変化を見ることになるだろう」と語った。

 この日はまず通訳だけを交えたトランプ氏と正恩氏の一対一の会談を約40分間行った。その後、ポンペオ氏や北朝鮮の金英哲(キムヨンチョル)党副委員長らを加えた拡大協議に移り、ワーキングランチ(昼食会)も行った。両首脳はいずれも12日夜までに帰国の途に就いた。 (シンガポール浜田耕治、曽山茂志、田中伸幸)

■非核化行程示せず

 【解説】全世界が注目した12日のトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による史上初の米朝首脳会談は、米国が強くこだわった「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の文言も具体的な行程も共同声明に盛り込まれず、「非核化」の展望が開けたとはいえない。トランプ氏は会見で「詳細を詰めるには時間がなかった」と認めるなど首脳会談の開催だけを優先した感は否めず、交渉の長期化や混迷が予想される。

 共同声明では、休戦状態の朝鮮戦争の「終結」も明記されず、トランプ氏は会見で「終結の期待を持っている」と述べるにとどめた。会談前には、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が急きょシンガポール入りし、米朝韓で「終結」に署名するか、1953年の「休戦協定」締結から65年の節目の7月27日に署名することを確認するとの期待が膨らんでいたため結果は後退したといえる。

 トランプ氏は米韓合同軍事演習の中止を表明、北朝鮮が反発してきた「CVID」にも触れなかった。譲歩の姿勢を示した背景には、正恩氏の顔を立てる代わりに、現有の核弾頭や米国本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の搬出・廃棄、国際原子力機関(IAEA)の早期査察の受け入れを水面下でのませたのではないかという「実」を取る戦略を取ったとの見方もある。

 第2次大戦後の「冷戦」構造の中で、70年以上敵対してきた米朝の指導者が3時間余りにわたって直接意見を交わし、笑顔で肩を並べて歩く姿は歴史の転換期を予感させた。正恩氏が完成を宣言した「国家核戦力」の解体は一朝一夕にはできないのは事実だが、国際社会の期待を背負った米国に今後の交渉で安易な妥協は決して許されない。 (シンガポール曽山茂志)

=2018/06/13付 西日本新聞朝刊=

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