【扉は開いたか・米朝首脳会談】(中)米韓演習中止「寝耳に水」

 ソウルの大学でコンピューターシステムを学ぶ趙誠票(チョソンピョ)さん(25)は、シンガポールで開催された米朝首脳会談を自宅のテレビで見守った。2014~16年に兵役を終えたばかり。厳しい訓練を経験して平和の大切さを実感した趙さんは、「非核化」の具体的な行程も朝鮮戦争の「終結」合意もない共同声明を見て「がっかりした」という。一夜明けて大学に行くと、友人も「米国も北朝鮮も信用できない」と嘆いていた。

 朝鮮戦争が「休戦状態」の韓国では19~30歳の男性に約2年の兵役が義務づけられている。戦争終結を目指すと確認した4月末の南北首脳会談での「板門店宣言」以降、韓国では兵役義務が軽減されるとの期待が急速に高まった。文在寅(ムンジェイン)大統領が掲げる南北経済交流が進むとの読みもあり、軍事境界線近くの都市では地価も上昇している。

 「冷戦」構造の中で分断し、70年が過ぎた朝鮮半島。史上初の米朝首脳会談を前に「平和定着」の期待が先行した韓国では、会談の結果に対し「予想に比べて合意内容が薄く、具体性にも欠ける」(外交筋)との落胆が広がった。

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 「何も聞いていない」-。米朝首脳会談後の記者会見で、トランプ米大統領が発言した米韓合同軍事演習の当面の中止について、シンガポールに派遣された韓国大統領府高官は戸惑いを隠せない様子だった。

 北朝鮮の朝鮮中央通信は13日、合同演習にこれまで強く反発してきた金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が12日の会談で「相手を刺激して敵視する軍事行動を中止する英断を下さなければならない」とストレートに要求し、トランプ氏は「対話が続く限りは演習を中止する」と答えたと伝えた。

 米韓は、今回の首脳会談を控えて合同軍事演習の縮小で合意していたが、「中止」は「寝耳に水」(韓国国防省)。韓国政府関係者は、トランプ氏が合同演習の米側の費用に言及したため、「間接的に韓国側に費用負担増を要求したのではないか」と、不信感ものぞかせた。

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 韓国政府は当初、会談に合わせて文氏がシンガポールに入り、朝鮮戦争の終結を3人で宣言する構想を描いていたもようだが、結局、文氏は招かれなかった。「米朝間の非核化交渉が難航して、韓国を加えた終戦宣言の調整まで進まなかった」(韓国メディア)との見方もあるが、肩すかしを食った印象はぬぐえない。

 「終戦宣言」は、共同声明にも盛り込まれなかった。米国の専門家は「非核化の確証を取ることが先決と判断し、トランプ氏は北朝鮮も望む終戦宣言を今後の交渉カードに温存したのではないか」と指摘する。

 悲願である朝鮮半島の平和構築に向けて、自身が仲介した史上初の米朝首脳会談は実現。ひとまず「大きな山を越えた」(大統領府関係者)が、米朝の特異な指導者2人に翻弄(ほんろう)されるかのように文氏の前途は多難だ。

 12日の会談後に文氏が公表した声明にその思いの一端が込められている。「これからも数々の困難があるだろうが、振り返らずに進む。この大胆な旅路を決してあきらめない」 (シンガポール曽山茂志)

=2018/06/14付 西日本新聞朝刊=

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