見えぬ非核化…長期化必至 米朝首脳会談1カ月

 史上初の米朝首脳会談から12日で1カ月。トランプ米大統領が融和を演出した「世紀の政治ショー」(米メディア)で、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は「朝鮮半島の完全非核化」に取り組むことを約束したが、具体的な動きはいまだ見えない。首脳会談を受けて先日行われた米朝高官協議では両者の溝が鮮明になり、非核化協議は長期化必至の情勢だ。いら立つ米国。中国を後ろ盾に強気の北朝鮮。歴史的会談後の米朝の現状を探る。 (ワシントン田中伸幸、ソウル曽山茂志)

焦る米国、演習再開論も浮上

 両首脳が署名した共同声明は非核化に向けた具体性に欠けるとの批判を浴びたが、トランプ氏は「北朝鮮はもはや核の脅威ではなくなった」とアピール。しかし実際は、非核化実現は不透明。勇み足の感は否めず、焦りも透け始めている。

 「中国は、米国の対中貿易への姿勢を理由に(米朝間の)取引に負の圧力をかけているのかもしれない」。トランプ氏は9日、ツイッターで「貿易戦争」状態に入った中国が米朝合意を妨害しようとしていると示唆。米朝首脳会談後、6~7日に初めて行われたポンペオ国務長官と正恩氏側近との高官協議は「成果なし」との見方が広がる現状に不快感をあらわにした。

 非核化協議を主導したいトランプ氏の意向を受け、行程などの詳細を早急に詰める腹づもりで平壌入りしたポンペオ氏。結果について記者団に「前進」を強調してみせたが、直後に来日したポンペオ氏から報告を受けた日本の外交筋は「協議は進まず、米政権は協議の厳しさをよく分かったようだ」と打ち明けた。

 ポンペオ氏は9日、訪問先のアフガニスタンでの記者会見で「わずかな時間で(非核化が)実現すると考えるなんてばかげている」と述べ、進展には時間を要するとの見解を示した。

 しかし、米CNNテレビによると、ホワイトハウスや国務省の間では遅くとも8月末までに非核化に向けた明確な計画を北朝鮮が示さなければ、圧力をかけるため、対話中は中止することを決めた米韓合同軍事演習を再開すべきだとの認識が広がりつつあるという。

 野党民主党は、楽観的な発言を繰り返してきたトランプ氏に対し「現実は全く違う。この政権は無能だ」などと批判。11月の中間選挙をにらみ攻撃姿勢をさらに強める方針だ。トランプ氏が批判に反発し、合同演習再開も含めた強硬姿勢を打ち出す方向に転じれば、対話ムードが水泡に帰すことになりかねない。

強気の北朝鮮、また「瀬戸際」?

 一方、北朝鮮は強気一辺倒だ。米韓合同軍事演習の中止が決まっても、先行して実施した北東部、豊渓里(プンゲリ)の核実験場の廃止と「釣り合わない」と不満を表明。正恩氏がトランプ氏に確約したミサイルエンジン実験場の閉鎖にも、制裁緩和など相応の見返りを求める構えを見せており、敵対していた米朝の仲介役を担った韓国では、米朝対話の行方を危ぶむ見方も出ている。

 北朝鮮の朝鮮中央通信は10日、正恩氏が北部の農場などを視察した記事を掲載。日時は不明だが、ポンペオ氏の平壌訪問の時期と重なっていた可能性もあり、仮にそうであればトランプ氏の名代を無視した格好だ。

 北朝鮮外務省は7日夜、ポンペオ氏と金英哲(キムヨンチョル)党副委員長との会談終了から数時間後、報道官声明を公表。制裁解除などの米側の見返りに伴って、非核化の措置に段階的に応じる考えを改めて示し、非核化の先行実施を強く迫る米国を「強盗さながらだ」と批判した。

 韓国のシンクタンク、峨山(アサン)政策研究院の申範〓(シンボムチョル)氏は、北朝鮮のこうした強気の姿勢の背景に、中国の存在があるとみる。中国は6月に北朝鮮観光を再開。中朝貿易も再び活発化しており、「制裁で切迫していた北朝鮮経済が落ち着き、非核化を急ぐ必要がなくなった」と推測する。

 12日には南北軍事境界線がある板門店で、朝鮮戦争で戦死した米兵の遺骨返還を巡る米朝高官協議があり、北朝鮮が米国に新たな見返りを要求する可能性もあるとみられる。

 11月の米中間選挙を前に「成果」を急ぐトランプ氏の足元を見透かすように交渉を揺さぶる北朝鮮。韓国の尹徳敏(ユンドクミン)・前国立外交院長は「むだに交渉を長引かせて、トランプ氏から見限られれば意味がないことを北朝鮮も分かっている。それを見極めながらの交渉になるだろう」と推測。今後も北朝鮮が得意の「瀬戸際戦術」に出るとみている。

※〓は「徹」の「ぎょうにんべん」を「さんずい」にした漢字

=2018/07/12付 西日本新聞朝刊=

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