衝突1年 ロヒンギャ70万人難民化 「殺されるかも」帰還へ恐怖 虐待、貧困…キャンプ環境「劣悪」

 【バンコク浜田耕治】ミャンマー西部ラカイン州のイスラム教徒少数民族ロヒンギャが隣国バングラデシュに大量に流出する契機となった治安部隊との衝突から、25日で1年を迎える。70万人以上に達した難民の帰還は進まず、劣悪な環境にあるキャンプ生活が長期化。人身売買などの人道危機も深刻になっている。

 「現地のバングラデシュ人から『帰れ』とののしられる。子どもが殴られ、虐待を受けることもある。故郷が恋しいが、殺されるかもしれない。怖くて帰れない」。バングラデシュ南東部コックスバザールのキャンプに逃れたロヒンギャ難民のユーベールさん(61)は20日、タイ在住の弟サベールさん(48)に電話でこう訴えた。

 大量流出の発端は昨年8月25日、ラカイン州で治安部隊がロヒンギャの武装集団に対して行った掃討作戦だ。ユーベールさんは家族や親族を含めて武装集団とは無関係だったが、目の前で軍服を着た男に親族を殺された。家も焼かれ、妻や子ら19人で10日間歩いて国境を越えた。恐怖心は消えていない。

 キャンプの環境は「劣悪だ」と言う。山を切り開いた斜面に密集する粗末な小屋。食料は配給されるが、一家が食べるには量が足りず、飲み水となる川の水は汚い。バングラデシュ政府は定住を防ぐため、キャンプ外での就労を認めていない。サベールさんは「兄に金銭の送金を頼まれることが多くなった」と話す。

 国際移住機関(IOM)によると、難民の間では金銭目的の人身売買が横行しているという。7月までの10カ月間に78人の人身売買被害者が特定された。IOMの責任者は「数千人が人身売買業者の手に渡る危険がある」と述べ、女性や女児は性被害を受ける可能性が高いと警告する。

 ミャンマーとバングラデシュ両政府は1月の帰還開始で合意したが、実現したのは自力で戻ったごくわずかの人だけだ。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは「帰還した6人はミャンマーの国境警備隊に拷問を受けた」と指摘。迫害の再発を恐れ、帰還をためらう人がほとんどだ。

 国際的な圧力が高まる中、ミャンマー政府は6月、難民帰還に向け、国連機関と協力する覚書を結んだ。7月にはロヒンギャに対する迫害疑惑を調べる独立調査委員会を設置し、委員に日本人を含む4人を任命した。変化の兆しは見えるが、国軍は帰還に非協力的とされ、どこまで実効性があるかは見通せない。

 「バングラデシュにいても幸せではないが、ここを動けない」。ユーベールさんの言葉が長期化する問題の根深さを示していた。

=2018/08/25付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]