カジノは街を救えたか 年315万人来場 韓国「江原ランド」ルポ

「身をもって経験したカジノの怖さを伝えていきたい」と語る鄭武〓(〓は左が「金」右が「庸」)さん=江原道旌善郡
「身をもって経験したカジノの怖さを伝えていきたい」と語る鄭武〓(〓は左が「金」右が「庸」)さん=江原道旌善郡
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 ●従業員3500人 地元採用75% 利用者の6割 依存症か

 統合型リゾート施設(IR)整備法が7月に成立し、日本でカジノが解禁となった。九州でも長崎県が誘致に乗り出すなど新たな観光資源としての期待がある一方、「ギャンブル依存症」の増加を懸念する声も根強い。半世紀前から外国人向けカジノがある韓国では、旧産炭地の振興策として2000年に北東部、江原道に韓国人も入れる唯一のカジノを開設。年間300万人超が来場し、1兆5千億ウォン(約1500億円)を売り上げる巨大カジノに成長した。カジノは地域を救ったのか。現地を訪ねた。
 (ソウル曽山茂志)

 ソウルからバスで東へ約3時間。2~3月の平昌冬季五輪の会場からも近い旌善(チョンソン)郡の山間部に半官半民の「江原ランド」が経営する「High(ハイ)1リゾート」が広がる。ヤフオクドーム(福岡市)77個分の532万平方メートルの広大な敷地に、大型ホテルやコンベンションセンターのほか、スキー場やゴルフ場などがある。その一角に建つ幾何学的なデザインの建物がカジノ棟だ。

 「カジノは夜の方が盛り上がります」。江原ランド広報の趙濬秀(チョジュンス)さん(46)の説明に従って、午前0時すぎにカジノに向かった。受け付けに設置されている入場者数を示すモニターには3906人と表示され、刻々と増えている。6千人で入場制限するという。

 5台の現金自動預け払い機(ATM)に挟まれたゲートで保安検査を受けて入場すると、すぐに立ち見客であふれるルーレットコーナーがあった。サンダルや作業着の軽装の客が目立つ。カジノは「韓国人と外国人が一緒に遊べる」とPRしているが、外国人らしき姿はない。「ソウルに外国人用のカジノがたくさんあるので、ここまでわざわざ来ません」と趙さん。

 ルーレットが回り、勝負が決まる。勝っても負けても客はあまり感情を表情に出さす、カラフルなチップがディーラーと呼ばれる店員との間を動くだけ。チップに交換するための50万~100万ウォン(5万~10万円)の札束が台のポケットに次々に吸い込まれる様子を見ているだけで、目が回るような気がした。

    ◇      ◇

 翌日、山を下りると、懐かしい景色があった。福岡県飯塚市や田川市などに残る「ぼた山」。石炭のくず石を積み上げた旧産炭地の象徴だ。標高数百メートルはありそうで、山頂の向こうにリゾートホテルの先端が見えた。旧炭鉱を活用した資料館の近くで、かつて炭鉱労働組合を率いたという李泰熙(イテヒ)さん(51)がカジノ誘致の経緯を説明してくれた。

 韓国最大の産炭地だった郡南部には1980年代まで46カ所の鉱山があった。しかし、石油の需要拡大で国産石炭は競争力を失い、90年代に入って次々に閉山。李さんは政府に地域振興と雇用確保を強く訴えた。

 当初、原子力発電所から出る核廃棄物の処分場建設構想も浮上したが、環境団体の反対で頓挫。工場建設の計画も立地条件の悪さで実現しなかった。結局、政府や自治体が主導したカジノを含むリゾート構想が残った。「かつて10万人近かったこの地域の人口が90年代に2万人台まで減った。『カジノで雇用を守る』という案以外に選択肢がなかった」と李さんは振り返る。

 95年、政府は韓国人のカジノ利用に道を開く特別法を制定。2000年にオープンすると全国から客が押し寄せた。現在、約3500人の従業員のうち75%が地元採用という。「雇用を守るという意味では大成功ですが…」。李さんの表情は晴れない。

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 まず、炭鉱の労働者がカジノに殺到した。閉山で受け取った退職金をつぎ込む人も。危機感を抱いた李さんらは施設に要請して地元住民の入場を月1回に制限してもらった。しかし、一度はまった人は住所を偽装して通い続けた。

 「友人に誘われて1万ウォン(約千円)でスロットをしたのが始まりだった」。元炭鉱労働者、鄭武〓(〓は左が「金」右が「庸」)(チョンムヨン)さん(65)が取材に応じた。初カジノは運良く大当たり。1万ウォンが500倍になった。次の週ももうかった。だが、うまい話は続かない。資金は間もなく底を突いた。家族に内緒で炭鉱を早期退職。退職金約5千万ウォンを元手に朝から晩まで数年間カジノに入り浸った。

 「一度1千万ウォン勝つと、100万~200万ウォンの勝ちでは満足しなくなる」。ついに子どもの大学入学費に手をつけた。家族から見放され、帰る場所もなくなり、死のうと思った時、「ギャンブル依存症」の相談活動を続ける牧師の方恩根(バンウングン)さん(60)に出会った。

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 関係者によると、1日平均8千人余のカジノ利用者の6割は依存症という。「一度依存症になれば、完治は難しい」と実感する方さんは、カジノ開設以来、2千人以上が自殺したと推測している。

 地元にはカジノで使う資金を借りるための質店が並び、カジノで勝った人向けの風俗店も増えた。財産を失って家族との関係が悪化してサウナなどを泊まり歩く「カジノホームレス」もいる。方さんは、カジノにのめり込む韓国人が多い背景には、日本のようにパチンコがなく、競馬、競輪も少ないため、ギャンブルに不慣れだったことに加え、勝負に熱くなりやすい気質もあるとみている。

 カジノがオープンして18年。地域の人口はさらに減って約1万人になった。旧産炭地振興策を学ぶため、福岡県大牟田市や長崎市を訪問したことがある鉱山地域社会研究所の元基俊(ウォンギジュン)所長(57)は「カジノで集客すれば地域が潤うというのは幻想だった」と指摘。これからカジノに参入する日本に対し「カジノは劇薬。扱い方を間違えると依存症の増加や地域荒廃という副作用があることを忘れてはならない。開設するのであれば、外国人ではなく、地元住民を守る対策が必要だ」と忠告した。

 ●解禁見据え邦人50人駐在 仁川・パラダイスシティ

 韓国の空の玄関口、仁川国際空港の隣接地に昨春オープンした韓国の統合型リゾート施設(IR)「パラダイスシティ」には、50人以上の日本人が駐在している。日本でのIR事業参入を目指し、韓国のカジノ大手と組んだ「セガサミーホールディングス」(東京)が派遣した社員だ。

 社員は派遣後2~3カ月、カジノの研修を受ける。研修終了後、ゲームを進行するディーラーとしてホールにも立つ。「ミスをせず、不正を疑われることなく、安心してプレーしてもらえるように細心の注意を払うよう教育します」と現地の日本人トップ、青山茂樹常務理事。今後も随時派遣を増やし、多くの社員にカジノのノウハウを学ばせる方針だ。

 スロット281台、テーブルゲームが154台で、外国人向けカジノでは韓国最大級。1万ウォン(約1000円)から賭けられるゲーム機から、1枚1千万ウォン(約100万円)のチップもあるVIP用個室まで、客の好みに応じたサービスを提供している。

 当初、カジノ客の半分は中国人と見込んでいたが、昨年、在韓米軍の迎撃ミサイル配備を巡って中国が韓国旅行を規制した影響で、これまでは25%程度にとどまる。代わりに日本人が40%を占めて最も多い。青山氏は「このカジノに来る日本人に『ギャンブル依存症』の問題は感じないが、日本では他国の事例を参考に、安全・安心に楽しめるカジノを追求していくべくだ」と強調する。セガサミーは京都大と共同でギャンブル依存症を研究しており、その成果を生かして対策を講じる計画だ。

 パラダイスシティは昨年4月、700室超の高級ホテルやカジノ、コンベンションセンターなどを一挙にオープン。今年9月下旬にはさらに、新たなホテルや商業施設、スパなどを開設する。敷地面積は約33万平方メートル。総事業費は1兆5675億ウォン(約1567億円)。

 ▼江原ランド 株式の51%を政府系公団や地元の江原道、市などが保有し、49%を民間が出資する。ホテルなどを含む総売上高は2017年まで3年連続で1兆5000億ウォン(約1500億円)を超え、95%はカジノ関連。韓国に17カ所あるカジノ総売上高の半分超を占める。年6000億ウォン(約600億円)前後を税金や地域振興費として還元している。

 外国人は入場無料、韓国人は9000ウォン(約900円)。入場客は年315万人。従業員約3500人の75%を地元採用している。

 ギャンブル依存症対策として地元住民の入場を月1回に制限。「中毒管理センター」を置き、2カ月連続で月15日以上の利用客らの入場を制限し、無料カウンセリングを提供する。1月にゲーム機の一部を減らし、4月に営業時間も2時間短縮し1日18時間とした。

=2018/09/17付 西日本新聞朝刊=

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