「実行の男」底力と限界 トランプ氏への審判

 6日実施された米中間選挙は与野党双方が議会上下両院の一方の多数派を握る「痛み分け」に終わった。米メディアによると、投票した約1億人の7割は「トランプ大統領の是非」を主要な判断材料に挙げたという。「ねじれ議会」の現出は、トランプ氏に「ノー」を突きつける人と、「イエス」の評価を与える人が拮抗(きっこう)する米社会の現実をまざまざと見せつけた。

 だが米国から遠く離れた日本には首をかしげる人が多いかもしれない。超大国のリーダーらしからぬ独善的な政策や言動によって世界中から批判を浴びるトランプ氏に、なぜ「イエス」なのか、と。

 約3カ月間に及ぶ選挙取材で得た一つの答えは、トランプ氏の「実行力」だ。

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 「トランプは男の中の男だ」。9月、中西部イリノイ州で話を聞いた80代の飲食店経営者は満足そうだった。大統領選で国内の鉄鋼産業を復活させると公約したトランプ氏は「禁じ手」ともいえる輸入鉄鋼への高関税措置を断行。その後押しを受けて地元の鉄鋼工場が稼働を再開し、客足が増えたからだ。

 大型減税などの手を次々と打ち、好景気を維持するトランプ氏を「実行の男」と称賛する声は、南部の大学生、東部の個人事業主、西海岸のアジア系移民など老若男女や出自を問わず、数多くの人から聞いた。

 トランプ氏の支持層といえば、中西部の白人労働者や保守的なキリスト教右派、白人至上主義者らの印象が強いが、取材で出会った支持者の中には狂信的な極論の持ち主ではなく、ごく普通の人たちも大勢いた。

 その多くは時に、大統領としての品位を欠くトランプ氏に「オバマ(前大統領)のように相手に敬意を持つ姿勢を示してほしい」と苦言も呈した。だが、彼らはこう強調する。「多くの大統領は立派なことを語っても結果を出せなかった。その点、トランプは約束を守る」(70代の日系人)

 背景にあるのは、オバマ前政権の8年間で募った強い「理想」への不信だ。「チェンジ」-。史上初の黒人大統領として、核廃絶などの理想を高々と掲げるオバマ氏に国民は熱狂した。

 しかし、オバマ氏は国民の関心の高い医療保険制度改革(オバマケア)でつまずき、与野党は政争に明け暮れて政権運営は迷走。外交でも中国の台頭やロシアのウクライナ侵攻などに有効な手を打てない。実行を伴わない理想に、熱狂は失望へ、そして「政治は無策」との怒りへ変わった。

 「腐ったワシントン政治を一掃する」。そう約束して登場したトランプ氏は国際協調の理念など意にも介さず、ひたすら公約の実現に突き進んだ。

 「約束を実現した。約束は守られた」。選挙戦中、トランプ氏の遊説会場にはそう書かれた巨大な看板が掲げられた。その実行力への熱狂が「反トランプ」のうねりを押し返し、共和党の上院死守をもたらした。

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 トランプ氏の手法には限界も付きまとう。保護主義的な通商政策の副作用は、中国の報復関税の標的となった米国産農産品などの輸出減少という形で現れつつある。保守層をつなぎ留めようと、主張は「右へ、右へ」と傾き、その結果、中道寄りの支持者は離反し、新たな支持層の獲得はより困難になりつつある。

 下院を制した民主党は2020年の次期大統領選での政権奪還へ向け、トランプ氏の公約阻止へ立ちはだかる。トランプ氏が16年の大統領選で勝利を収めてから8日で丸2年。再選をにらみ、「実行の男」であり続けようとするトランプ氏がやすやすと屈するとは思えない。ただその命運は、崇高な理想より現実的な成果を求める「普通の人たち」が握っている。 (ワシントン田中伸幸)

=2018/11/09付 西日本新聞朝刊=

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