韓国、世論に押され戦略なき解散 慰安婦財団 「政府は自らを追い込んだ」の声も

 韓国政府が21日、元慰安婦や遺族の支援を担う「和解・癒やし財団」を解散すると正式に発表した。文在寅(ムンジェイン)政権は国内の厳しい対日感情を意識しつつ、北朝鮮問題などで連携が必要な日本との距離感に腐心。厳重抗議の姿勢を示した安倍晋三政権も、駐韓大使の一時帰国などの対抗措置は当面講じず、出方をうかがう構えだ。日本企業へ賠償を命じる元徴用工判決問題も重なるだけに、ぎくしゃくした関係が続きそうだ。

 「日本政府は謝罪せよ」-。韓国政府が財団の解散を発表した直後、ソウルの日本大使館前で元慰安婦の支援団体が集会を開き、学生ら約200人がシュプレヒコールを上げた。入院中という元慰安婦の女性からのメッセージを読み上げた市民団体の女性代表は「これ(財団解散)は韓日合意の無効宣言だ。われわれは勝った」と胸を張った。

 市民団体は、朴槿恵(パククネ)政権が合意に踏み切った日韓合意に「被害者を無視した」などとして当初から反発。同調する文政権の誕生も後押ししたと自負する。政府の支援が得られず、身動きが取れなくなった財団は理事長を含め理事の大半が辞表を出して、事実上休止状態に陥った。文政権は、活動していない財団の職員の人件費や事務所家賃が月数千万ウォン(数百万円)かかるとアピール。10月初めの世論調査では、回答者の3分の2が財団解散に「賛成」と答えた。

 こうした世論に押されて、解散決定に踏み切った韓国政府だが、日本への配慮もうかがわせた。財団を所管する女性家族相は記者会見せずに、発表文の配布だけにとどめた。大統領、外相も沈黙。韓国外務省関係者は「合意自体に問題はあっても、破棄したり、再交渉したりしない姿勢は変わりはない」と強調した。

 29日は、第2次大戦中に朝鮮半島から徴用された韓国人が三菱重工業を相手取って損害賠償を求めた訴訟の最高裁判決日。10月末の新日鉄住金に続き、日本企業の敗訴が確定するとの見方が強い。韓国政府は、日本の世論をこれ以上に刺激しないように、財団解散発表の日程を調整したもようだ。

 ただ、文政権に財団解散後の戦略は見えていない。女性家族省の担当者は「解散を決めたばかりで、日本との協議は時間がかかる」と本音を漏らす。世論向けに“けじめ”をつけた格好だが、支援団体から日本が拠出した10億円の全額返済を求める声が強まるのは必至。日本がすんなり受け取るとは考えにくく、政権が板挟みになる恐れもある。

 財団は2015年の日韓合意時点で存命していた元慰安婦の7割超に現金を給付。理事の一人は「財団事業の評価もせずに解散を一方的に決めたことで、日本は韓国への不信感を強めたのではないか。韓国政府は自らを追い込んでしまった」と話した。 (ソウル曽山茂志)

■日本、対抗措置見送り

 日本政府は21日、「和解・癒やし財団」の解散方針を発表した韓国政府に「到底受け入れられない」(菅義偉官房長官)と強く反発した。合意の破棄や再交渉には応じないという立場は明確だが、財団の解散で元慰安婦支援のために日本が拠出した10億円の残金は宙に浮く。日本側は「余ったから返すとはならない。韓国が知恵を絞って使い道の代替案を示すべきだ」(外務省幹部)として韓国の対応を注視する構えだ。

 財団解散が発表された直後、秋葉剛男外務事務次官は李洙勲(イスフン)駐日韓国大使を外務省に呼んで抗議した。安倍晋三首相と河野太郎外相も相次いで記者団の取材に応じ、国際約束を守る日本、守らない韓国という点を強調。韓国側がこれ以上、慰安婦問題を蒸し返さないようにけん制した。

 一方で、拠出金の取り扱いの協議について、河野氏は「必要なら話し合いをしていきたい」と応じる考えを示した。

 北朝鮮問題を抱え、必要以上に事を荒立てたくないという思惑ものぞく。菅氏は記者会見で駐韓大使の一時帰国について「北朝鮮問題に関する日韓の高いレベルでの意見交換や情報収集が極めて重要だ。現在の状況なども踏まえて判断していく」と述べた。 (前田絵)

=2018/11/22付 西日本新聞朝刊=

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