三大感染症の今 インドネシアの挑戦(中) 都市に潜む結核の脅威

移動式のクリニックでHIVの検査を受ける人たち。LGBTへの弾圧が強まり、毎回場所を変えて実施している
移動式のクリニックでHIVの検査を受ける人たち。LGBTへの弾圧が強まり、毎回場所を変えて実施している
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国内随一のペルサハバタン病院で治療を待つ結核患者たち。治療には1年前後かかり、完治しないままやめてしまう人も少なくない=ジャカルタ
国内随一のペルサハバタン病院で治療を待つ結核患者たち。治療には1年前後かかり、完治しないままやめてしまう人も少なくない=ジャカルタ
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 ジャカルタの表通りから路地を入った住宅地の公園で、医師らによる移動型のクリニックが開かれていた。臨時のエイズウイルス(HIV)検査だ。

 「陰性でした」。リンナ・ジャニアール医師(37)が告げると、初めて検査を受けたアアスさん(38)は目に涙を浮かべた。男性に生まれ、今は女性として性産業に従事する。感染を疑い、ずっと不安を抱えていたという。

 近年、インドネシアでは性的少数者(LGBT)に向けたHIV検査が表だって開きにくくなっている。保守的なイスラム教団体によるLGBTへの差別や弾圧が強まっているからだ。

 推計63万人とされるHIV感染者のうち、治療を受けているのは14%のみ。ジャニアール医師は「場所を変えることで安心して来てもらいたい」と期待する。

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 この日集まったのは10人で、LGBT支援団体のベティさん(43)が、検査を怖がる人を「私は感染して9年たつけど元気。治療方法はちゃんとある」と説得して連れて来た。

 治療さえ始めればエイズ発症は抑えられる、ただ、免疫力が低下したHIV感染者に脅威なのが、都市部にはびこる結核だ。

 日本では、根絶された昔の病気と思われがちな結核だが、世界では毎日4千人が死亡する。せきやくしゃみのしぶきから簡単に感染してしまうという。

 結核治療の中心であるジャカルタのペルサハバタン病院には、治療を待つ患者が列を作っていた。

 治療を始めて8カ月というアンセカワンさん(35)は、毎日バイクで30分かけて通院する。「肩こりと吐き気がひどい」。強い副作用のためバイクタクシーの仕事は辞めた。もうすぐ注射治療は終わるが、1日18錠の薬の服用はあと1年続く。「10歳と5歳の娘のためにやりとげる」と笑顔を見せた。

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 ただ、現実は厳しい。

 同病院のエルリーナ・ブルハン医師は「副作用と長引く治療がいやになり、半数ほどが途中で投げ出してしまう」と説明する。完治しないで薬をやめると体内で薬剤耐性菌がつくられ、最初の治療で使用した薬は効かなくなり、より高度な治療が必要になる。

 国際支援もあり結核の治療は個人負担ゼロだが、家族や地域に感染を広げることを理解していない人が少なくないという。

 保健省によると、2017年に感染の報告があったのは44万6732人。推計患者数は84万2千人とされ、約半数は治療につながっていない計算になる。隠れた感染者を見つけ出すボランティア活動が全国に浸透しつつあるものの、追いつかないのが現状だ。

 ブルハン医師はため息をついた。「感染者の治療を法律で義務付けるような極端なやり方が必要だ」

 結核根絶のゴールはまだ見えない。

=2018/12/25付 西日本新聞朝刊=

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