2018年 世界はこう動いた

 今年、世界は激しく動いた。北朝鮮の非核化を巡って史上初の米朝首脳会談が実現し、朝鮮半島情勢は新たな局面に入った。米国と中国は互いに経済制裁を繰り返す貿易戦争に突入し、二大経済大国による「覇権争い」が先鋭化。強国化路線を突き進む中国の巨大経済圏構想は東南アジアなど各地に波紋を広げた。従来の国際秩序の根幹が揺らぐ不透明な時代の幕開けを感じさせた2018年の世界を、本紙特派員が振り返る。

■歴史的一歩 動きは鈍く 北朝鮮の非核化

 「核のボタンは私の部屋にある」。2018年の朝鮮半島は、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が発した「挑発」の言葉で幕を開けた。程なくして正恩氏が、国際社会との関係を「対話」へかじを切るとは誰が予想できただろうか。

 北朝鮮は16年、17年に核実験を3回強行し、米本土を射程に入れる大陸間弾道ミサイル(ICBM)級を含めミサイルなど50発以上を発射。17年11月には核兵器の完成を宣言した。

 その正恩氏が一転、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が掲げる南北融和路線に同調し、世界を驚かせた。2月の平昌冬季五輪へ北朝鮮選手団を派遣し、4月には10年半ぶりの南北首脳会談を開催。南北の軍事境界線にある「板門店」で文氏と笑顔で会談し、国際社会に「核のない朝鮮半島を実現する」と宣言した。

 正恩氏は南北首脳会談の前後に中国・北京も訪問。核・ミサイル開発で冷え込んでいた中朝関係の修復に動いた。韓国を自陣に引き入れ、中国を後ろ盾に米国を揺さぶり、自身を頂点とする体制の保証と経済制裁の早期解除を目指す狙いは明白だった。

 トランプ大統領にとっても、秋の米議会中間選挙を前に外交成果を打ち出したい思惑があった。6月、正恩氏の呼び掛けに応じ、シンガポールで史上初の米朝首脳会談が実現。「もはや北朝鮮の核の脅威はなくなった」と胸を張った。

 ただし、非核化実現に向けた具体的な道筋は示されず、国際社会から「単なる政治ショー」との批判も出た。南北首脳は9月にも会談し、正恩氏は核開発拠点の凍結構想などを打ち出して米国に譲歩を迫った。米国も米韓合同軍事演習を中止するなどの配慮をみせたが、非核化の明確な行程はなお示されなかった。

 正恩氏が米中韓それぞれの首脳と相次いで会談する中、日本も米韓を通じて拉致問題の解決に向けた対話を呼び掛けた。しかし、北朝鮮は国際社会に制裁継続を訴える日本に反発。正恩氏は「関係改善を模索する用意がある」と述べるにとどめ、明確な行動は示さなかった。10月以降、元徴用工を巡る韓国最高裁の判決や、文政権が元慰安婦支援財団の解散を発表したこともあり、日韓関係は冷え込んだ。

 18年上半期、国際社会を巻き込み、激動した朝鮮半島情勢。米朝会談をてこに非核化の歯車が回り始めたかに見えたが、秋が深まると両者の立場の隔たりが明確になってきた。事態打開へ、韓国・ソウルで12月開催を模索した今年4度目の南北首脳会談は、実現の見通しが立たないまま。越年確実の交渉は、膠着(こうちゃく)状態に入った。
 (ソウル曽山茂志、ワシントン田中伸幸)

■一帯一路5年 曲がり角 東南アジア警戒

 中国の習近平指導部が現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を唱えて今年で5年。対象国に巨額のインフラ投資を行い、経済協力をてこに影響力を高める外交戦略を展開している。だが一部の国では対中債務の山を抱える「債務のわな」が表面化。東南アジアでも警戒感が高まった。

 習国家主席が構想を打ち出した2013年9月以降、中国は関係国で港湾や高速鉄道などのインフラ整備を進め、17年までに累計800億ドル(約9兆円)超を投じた。協力協定を結んだ国や国際機関は今夏までに103に上り、南米や北極にも広がる。

 しかし、今年に入ってほころびも目立つ。マレーシアは政権交代後の8月、財政悪化への懸念を理由に鉄道建設やパイプライン事業の中止を発表。マハティール首相は「新たな植民地主義は望まない」とけん制した。ミャンマーも11月、中国側が開発権を持つ西部チャウピューの港湾計画の事業規模を縮小。中国依存を脱却する動きはモルディブやパキスタンでも相次いだ。

 東南アジアの新興国にとって、経済成長のためのインフラ整備は不可欠だ。中国の豊富な資金は魅力的だが、借金返済が困難になれば完成したインフラを中国に譲渡せざるを得なくなる。代償の大きさに各国が気づき、修正を始めたのだ。習氏は「一帯一路は政治、軍事同盟でもなければ中国クラブでもない」と強調するが、中国式の援助外交は曲がり角を迎えている。
 (バンコク浜田耕治、北京・川原田健雄)

■覇権争い「新冷戦」にも 深まる米中対立

 「新冷戦」という言葉が取り沙汰されるほど、今年は米国と中国の二大大国による対立が深まった。

 貿易赤字の解消を目指すトランプ大統領は3月、中国による知的財産権侵害への制裁を理由に、中国製品に追加関税を課す大統領令に署名。7~9月に3回にわたって制裁措置を発動し、その対象は中国からの輸入額の約半分に当たる計約2500億ドル相当に達した。中国も計1100億ドル相当の米国製品に追加関税を課す報復措置で対抗。高関税をかけ合う「貿易戦争」は激化の一途をたどった。

 対立は貿易だけにとどまらない。米国は中国による南シナ海の軍事拠点化を批判し、米軍艦による「航行の自由」作戦を展開。9月には米中の軍艦が異常接近する事態も起きた。

 米国では3月、台湾との高官往来を促進する法律が成立。米企業が台湾の潜水艦建造計画に関与することも解禁した。これに対し中国は4月、台湾海峡で実弾射撃演習を実施。その後も爆撃機を台湾周辺に派遣し、米台接近をけん制した。

 米国は昨年12月に発表した国家安全保障戦略で中国を「競争相手」と位置付け、封じ込めを図る姿勢を鮮明にしている。背景には、中国が次世代通信など軍事に直結する先端技術の覇権を握ろうと不正な手段で米企業の知的財産権を得ている、との米側の危機感がある。中国側でも「中国の(共産党一党支配の)政治や経済の制度を否定するなら、長期的対立は避けられない」(大学教授)との見方が広がりつつある。

 米中の貿易戦争による世界経済への悪影響が懸念される中、トランプ氏と中国の習近平国家主席は12月、アルゼンチンで会談。来年1月に予定していた米国による追加関税拡大を先送りし、知的財産権保護などについて90日の期限付きで交渉を続ける「一時休戦」に合意した。

 米中は融和に向けた一歩を踏み出したかに見えたが、首脳会談当日に中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)幹部が米国の要請を受けたカナダ当局に拘束されたことが判明。中国は強く反発し、複数のカナダ人を拘束する報復とも取れる動きを見せている。中国は米国産車への追加関税停止など譲歩の姿勢も示しているが、妥結に向かうかは不透明だ。
 (ワシントン田中伸幸、北京・川原田健雄)

=2018/12/31付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]