日韓関係どうなるの 釜山で1年暮らして考えた

韓国・釜山市の日本総領事館前に徴用工像を置こうとする市民団体と警官隊が、一時もみ合いになった=2018年5月
韓国・釜山市の日本総領事館前に徴用工像を置こうとする市民団体と警官隊が、一時もみ合いになった=2018年5月
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釜山の高校生(右)が日本から来た観光客と一緒にチヂミを作りながら交流した=2018年6月
釜山の高校生(右)が日本から来た観光客と一緒にチヂミを作りながら交流した=2018年6月
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 1965年の国交正常化以来、「最悪」と言われる日韓関係。元徴用工訴訟では韓国の最高裁が日本企業に賠償を命じ、レーダー照射問題などで感情の溝も広がった。一方で、両国の往来者数は20年前の4倍に当たる1千万人を超えた。韓国市民の目に、今の日韓関係とその未来はどう映っているのか。1年間、釜山市で暮らし、時に意見や疑問をぶつけながら考えた。 

 ●歴史問題は意外に冷静

 大通りに面した幅2メートルほどの歩道を人が埋め尽くす。釜山市の日本総領事館前で、徴用工像を設置しようとする市民団体と、それを阻止する警官隊が一歩も引かずに対峙(たいじ)する。釜山に着任した昨春から何度も目にした光景だ。「日本は謝罪しろ」「警察は道を空けろ」。市民団体はシュプレヒコールを繰り返し、水風船を総領事館に投げた。

 現場ではしばしば唯一の日本メディアだったこともあり、自分が批判されているような感覚に陥った。地元紙・釜山日報の記者に打ち明けると「でも日常生活であなたに嫌がらせをする人はいないでしょ」と慰められた。確かに釜山の人々に助けられることはあっても、日本人だからといって非難されたことはない。

 20年前に韓国人との結婚を機に釜山に移り住んだ日本人女性(49)は「昔は人が多い場所で日本語を話すこともはばかられた」と振り返る。当時の韓国は、日本の映画や歌などが解禁され始めた頃。今では書店のベストセラーの棚に日本人作家の翻訳本が並び、街には日本料理店があふれる。反日感情は時とともに薄れつつあるのだろうか。

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 「正直、歴史問題には関心がないんです。それよりも僕たちの世代は国に対する不満が大きい」。釜山市内の病院に勤務する高薫基(コフンギ)さん(31)はこぼした。

 徴兵制の負担は重いのに、若者の失業率は昨年まで2年連続で9%前後と高い。不動産価格も高騰し、上の世代よりも将来の見通しは厳しい。こうした世相を反映して日本で就職を目指す若者も増えている。

 昨年度、約100人の卒業生が日本に就職した釜山外国語大の鄭起永(チョンギヨン)総長によると、日本語学科の学生のうち、親が日本での就職に反対するのは1割ほどだという。「日本批判の政治家の発言には意図があることを見抜き、政府間の関係悪化に左右されず、合理的に考える人が増えたのではないか」と分析する。

 ●見えない「反日」根強く

 日常生活では見えづらい「反日感情」。だが、この数年で慰安婦問題を象徴する少女像の設置は韓国内で100体を超え、その多くは寄付金で建てられた。「今は歴史に無関心な若者が多すぎる。日本がわれわれの文化を奪い、植民地にした事実と、それに対する恨みは消えていない」。自営業男性(42)は活動に理解を示す。

 釜山大4年の黄石済(ファンソクチェ)さん(27)は「日本の首相が元慰安婦のおばあさんに直接謝罪しない限り、被害者の名誉は回復しない」と考える。学校の授業で歴史問題に関心を持ち、元慰安婦から「最後まで一緒に闘ってほしい」と手を握られた。卒業後は少女像を設置した市民団体のメンバーになるつもりだ。そんな黄さんを団体は「未来世代の主人公だ」と称賛する。

 過去には日本の首相が「おわびの手紙」を元慰安婦への償い金に添え、村山談話では植民地支配と侵略の歴史を謝罪した。それでも黄さんは「おばあさんたちは謝罪を受けた覚えはないと訴えている」と言う。

 「安倍首相は憲法を改正して、再び戦争ができる国にしようとしている。過去の反省すら否定しているように見えるんです」

 日本の政治への高い関心とともに、一度謝れば「水に流す」のが美徳とされる日本の文化や考え方との違いを私は感じた。

 ●「揺るがない人」に希望

 市民団体の行動は時に過激になる。警官隊ともみ合いになることも多い。

 抗議集会のそばを通りかかった釜山市の会社員男性(32)に、市民の対日感情も悪化しているのかと問うと、首を振ってこう説明してくれた。「韓国ではかつて軍事政権による弾圧が続いた。市民団体は声高に叫ばないと注目されなかったので、そのやり方を踏襲しているのではないか」

 集会の回数は増えても集まる顔ぶれに大きな変化はない。人数が急増している訳でもない。日本統治時代に小学時代を過ごした80代男性は、市民団体への苦々しい思いを明かす。

 「日本人も70代以上は韓国に対してすまないという思いを持つ人は多い。なのに何十年も前のことを引っ張り出して、子や孫の世代を苦しめて何になるのか」

 だが、その思いを公にすることはないという。「言えば問題になるだけ。関わらないのが一番いい」

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 韓国では今年、日本の統治に抵抗した「三・一独立運動」から100周年を迎えた。植民地時代に日本に協力した人物の責任を追及する動きが活発だ。関係改善を望む人たちも、声を上げにくい空気が漂う。

 日本語教師の李(イ)セボムさん(35)は人々の気持ちをこう代弁する。「今は日本について悪い情報を見聞きしても、直接日本に行ったり、インターネットで内容を確かめたりできる。最悪といわれる韓日関係も冷静に見ている人が実は多いんです」

 釜山の魅力を動画で伝え、日本の視聴者と韓国人の交流会を開いてきた釜山在住の日本人、昆雅之さん(45)も揺らがない。「日韓の間に、一緒に食事ができる人間関係を少しでも増やしたい。人として向き合えば、相手への思いやりも生まれるでしょう」

 関係悪化をすぐに解決する妙案はない。でも希望はあると確信している。(釜山・丹村智子)

=2019/03/25付 西日本新聞朝刊=

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