ソフトB達川ヘッド語る、笑いと涙の開幕秘話 阪神フィルダーに被弾で髪逆立つ

西日本スポーツ

 【達川ヘッドの今昔物語】

 参謀役として今季から工藤ホークスに加わった達川光男ヘッドコーチ(61)のコラムが新たにスタートします。プロ入りから今年で40年の豊富な経験に加え、誰もが認める類いまれな話術で、過去、現在、未来を縦横無尽に語る「今昔物語」-。第1回は2日の開幕3戦目でプロ初スタメンを飾った7年目の捕手、甲斐の「今」、そして開幕にまつわる笑いと涙の秘話をお届けします。

 西スポ読者の皆さま、どうも、今季からヘッドコーチを務めとる達川です。記者さんからどうしてもと頼みこまれて月に1回、このコーナーを任されることになりましたけえ、よろしゅうお願いします。

 開幕戦。ワシも選手、監督、コーチといろんな立場で迎えてきたけど、独特の緊張感があるもんよ。逆転勝ちで、ええスタートを切れたのはよかったんじゃけど、開幕戦以上に試合前からドキドキしたのが3戦目じゃった。7年目の甲斐(拓也)がプロ初スタメン。「ちゃんとやってくれるやろうか…」と。この日の試合が、彼の野球人生を変えると言っても過言ではない、思うとったから。

 ワシも捕手やったから、初先発マスクがどれだけ緊張するもんかはわかるんよ。ワシのときは、当時監督の古葉(竹識)さんに「勝ったらずっと出られるぞ」と言われて送り出されたのを覚えとる。ええ捕手であっても勝てるとは限らんけど、勝てばええ捕手と言われるんよ。捕手というのはそういうもん。だから監督以上に「勝ちたい」と強く思うとるやつじゃないと務まらんのよ。

 結論から言うと、立派じゃったよ甲斐は。最初、あいつはホームベースを手できれいにしよったわいな。その後、その手を土につけてな。「どうかお願いします…」とでも言いよったんやろな。わらにもすがる、じゃないけど。うまく自分ができるかどうか、逃げ出したい思いもあった思うよ。7回まで必死にリードして勝ったからな。正捕手になるためにはまだまだ努力も必要やし、これからじゃけど、彼の野球人生の分岐点という意味では、ええ試合になった思うよ。

   ◇    ◇

 本当は真面目な話だけでええんやけど、記者さんが面白い話もしてくれえ言うもんじゃから、現役時代の話でもするかの。開幕マスクは7、8回かぶった思うけど、痛い目にもおうたよ。1989年に阪神にフィルダーという助っ人が来たんじゃけど、その年の開幕戦よ。北別府(学)が投げてリードしとったんじゃけど、8回にピンチでフィルダー。投手は長冨(浩志)に代わったんじゃけど、投球練習で直球がシュート回転してたんよ。「このままシュートを内角にいったれ」思うたら「バチーーーン!」て…。逆転3ランよ。人間、鳥肌が立つとかあるけど、あのとき、漫画みたいに、自分の髪の毛が「ピーーンッ!」と立ったんが分かったんよ。後にも先にも初めてよ、髪の毛が立ったんは。その後、フィルダーには全然打たれんかったけどな。本塁打は絶対ダメな場面で、ワシも冷静さを失っとったんじゃろうな。開幕の緊張感でな。今思えば、長冨はシュートが一番苦手な投手やったんよ。

   ◇    ◇

 ええ思い出もあるよ。去年カープが25年ぶりに優勝したけど、その前に優勝した91年のヤクルトとの開幕戦よ。その年が2年目じゃった前田智徳が開幕初スタメンで、先頭打者ホームランでのプロ初アーチを打ったんよ。それに隠されとるけど、実はその試合でワシも打っとるんよ、前田とアベックホームラン(笑)。でもその試合は雨がどしゃ降りでの…。守っとったら、3回とか4回くらいで主審の「こりゃ、中止にせないかんかなあ~」とかいう、独り言が後ろから聞こえてくるんよ。前田のプロ1号を消したくない…以上に珍しいワシの一発も幻のアーチになったらたまらんからの。こっちも「頼みますよぉ、お願いしますよぉ、頼みますよぉー」って必死よ。守りながら、後ろの主審に聞こえるようにな。独り言よ、あくまで独り言でな。その思いが通じたかどうかは知らんけど、5回降雨コールド、3対3の引き分けで試合は成立。現役15年間、ワシの唯一の開幕アーチよ。

 話が脱線したけど、最後はちょっと真面目な話をするかの。現役時代は、開幕は必ず先祖のお墓参りをして、女房が準備してくれた尾頭付きのタイと赤飯食べて迎えよったんよ。女房は3年前に亡くなったんじゃけどな。今は福岡で独り暮らしやから、今年の開幕は球場に来てから、サロンにあった赤飯とタイをいただいたんよ。で、赤飯を一口食べたら、こんなワシも何か感傷的になってしもうてな。「女房が作ってくれたなぁ」て思い出しての…。捕手はよく女房役といわれるけど、グラウンドでは家でご飯を作ってくれる女房のためにと思って頑張りよった。今の1軍の捕手では甲斐だけが独身やけど、早くそう思えるお嫁さんをもらってほしいわな。投手にとっていい「お嫁さん」になるためにもな。いい感じでまとまったし、今回はこの辺にしとこうかの。記者さんからは月1回でとお願いされとるけど、今回が好評じゃなかったら、次はもうやらんけえの(笑)。 (福岡ソフトバンクヘッドコーチ)

 ◆達川光男(たつかわ・みつお)1955年7月13日生まれ。広島市出身。広島商高、東洋大からドラフト4位で78年に広島入団。正捕手として攻撃的なリードと打者に話しかける独自の戦術で活躍した。現役通算成績は1334試合で打率2割4分6厘、51本塁打、358打点。ベストナイン、ゴールデングラブ賞を各3度受賞。92年に引退後は、95年にダイエーでバッテリーコーチ。98年に2軍監督で広島復帰し、99、2000年監督。03年は阪神、14、15年は中日でコーチを務めた。野球解説者でも活躍。右投げ右打ち。

=2017/04/04付 西日本スポーツ=

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