【若鷹、あの夏】2016年秀岳館・九鬼 魂の帽子は胸の中?

西日本スポーツ

 (2016年 準決勝 秀岳館3-4北海)

 夢中で駆け抜けたからか、頓着しない性格のせいなのか。ともかく、九鬼(現ソフトバンク)は覚えていない。「あの帽子…どうしたんすかね。ちゃんとしとけば良かったかなあ」

 昨夏。帽子のつばの内側は、黒ペンの文字でびっしりだった。チームメートのメッセージ。日本一、野球の鬼…思い思いの言葉の真ん中に「おれをホームにかえしてくれ 大河」とある。中学生の主要大会5冠を達成した「オール枚方ボーイズ」時代からの戦友。1番打者の松尾大河(現DeNA)の字だった。

 春の選抜大会での4強をステップに、夏の甲子園制覇を狙った秀岳館。北海との準決勝は6回まで0-4の劣勢だった。7回に先頭で二塁打を放ち、1点を返す端緒を開いた4番九鬼。その主将に8回2死二塁、再び打席が回る。「セカンドランナーが松尾やったんです。目で『絶対かえせよ』って。『よっしゃ』と思って打席に入って、打って…うれしかったですね」

 右翼手が打球を後逸する間、自身も生還し、1点差に迫った。記録上の扱いは承知ながら、九鬼は「ランニングホームラン」と言ってはばからない。もっとも、反撃はここまでだった。

 大会後、チームメートと夏を語れば、決まって見方は一緒になった。「やっぱり、まず話題になるのは初回ですかね。あそこで点が入ってればな、って」。1回表、先頭の松尾が三塁打。「よっしゃ。もう、これ、いける」。そんな期待感は四球で無死一、三塁となってさらに高まるが、予想外の流れが待っていた。

 最初は二盗失敗。続いて捕手が投球をそらした際、本塁を狙った松尾が憤死した。最後は九鬼が好守に遭って左飛。スコアボードに「0」が入る。「相手を勢いづけた。ウチはそこからズルズルいってるんで」。足を使った攻めは春からの上積みだ。それだけでなく、元来の強打も発揮できない。相手投手は制球こそ良くても「びっくりするような球はなかった」のに。

 要因を探した。いかにもバツが悪そうに、九鬼は言った。「自分自身も少し…相手が北海と決まった時から、気の緩みがあったというか」。2日前。第1試合で準決勝進出を決めた秀岳館ナインは、堺市内のビジネスホテルに戻り、2人部屋に分かれて相手が決まるのを待っていた。第3試合の北海-聖光学院の勝者か、第4試合の作新学院-木更津総合の勝者か。

 まず北海が勝った。「相手はどっちや、どっちやって。みんな部屋で見てたと思う。北海の監督のインタビューで『次の相手は秀岳館ですが…』と。その瞬間、大騒ぎです。『よっしゃあ』って大声出して、みんな部屋から飛び出してきた」

 無理もない。作新学院は絶対的エース今井(現西武)を擁し、結局、この夏を制した。北海を過小評価してはいなかったが「『作新じゃない』っていうのはやっぱりあったと思うんです」。休養日を挟んで試合まで、そうした空気の中で過ごしたことになる。

 今年7月、この準決勝が人気バラエティー番組で取り上げられた。1点を追う9回2死のベンチが大写し。「こんなところで負けてたまるかー!」。九鬼が叫んでいた。今、自分で見返すと「率直に恥ずかしいです」。翌日のファームの練習では「一日中、すんごいイジり」に遭ったと言う。

 「でも、うれしいですよね。高校のスポーツでここまで取り上げられるの、野球ぐらいと思うんです。頑張って良かった」。甲子園は「夢のような場所」と言う。「甲子園、どうだった? って聞かれたら『悔しかったな』より『楽しかったな』が先にきます。あれだけ多くの人の中で、熊本県の代表校として野球するのは幸せで、楽しかった」

 後輩たちの夢舞台が幕を開ける。「ああいう舞台で野球できるのは、やっぱりいいことですね」。今春まで3季連続4強の秀岳館。退任を表明した鍛治舎巧監督と戦う、最後の大会になった。第4日の第2試合で、横浜とまみえる。


=2017/08/08 西日本スポーツ=

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