お調子者のワシじゃけど…SB達川ヘッドが「歓喜の輪に入っちゃいけない」と思ったワケ

西日本スポーツ

2年ぶりのリーグ制覇に貢献した達川ヘッドコーチ 拡大

2年ぶりのリーグ制覇に貢献した達川ヘッドコーチ

 【達川ヘッドの今昔物語】

 独特の話術で球界の今と昔を紡ぐ達川光男ヘッドコーチ(62)のコラム「今昔物語」-。リーグ優勝特別版の今回は、大好評を頂いた前回までとは一線を画し、持ち味の「笑い」はなしで、選手らが成し遂げたV奪回の軌跡を真剣な視点で振り返ります。そして現役時代に工藤公康監督(54)と相まみえた広島-西武の日本シリーズの記憶をひもとき、日本一への強い意気込みも語ってくれます。

 西スポ読者のみなさん、どうも達川です。シーズンが佳境だったこともあって、しばらくこのコーナーをできていなかったんじゃけど、ファンの方の声援のおかげもあって、チームはリーグ優勝を果たすことができました。無責任な言い方かもしれんのじゃけど、監督、選手、コーチ、フロント、去年からチームにいたすべての人に心から敬意を表したいんよ。去年、11・5ゲーム差からの逆転で優勝を逃した悔しさがあったからこそ、今年1年間、隙のない戦いができたと思うんよ。

 ワシも本来なら喜びを共有しなきゃならんのじゃけど、正直、優勝した瞬間、うれしいというよりホッとしたんよ。元来お調子者のワシは、何度か優勝した選手時代から輪の中にいち早くいくタイプじゃけど、今回は入っちゃいけないと思ったんよ。この優勝は去年の悔しさから、みんなが1年間、つらい思いをして勝ち取ったもの。ワシが歓喜の輪に参加したら失礼という思いが本音じゃったよ。

■意識の強さの差が出た

 みんな口には出していないけど、去年は負けた瞬間、ある選手が腰が抜けて、椅子にも座れなかったという記事も見た。人知れず涙を流していた選手も何人かいたと聞いたよ。それを1年で取り返したのはすごいことよ。人間、生きていれば大きな失敗、大きな屈辱を味わうこともあるよ。でもそれを取り返すところに美しさがある。このコラムの第1回でこの言葉を紹介したと思うんよ。「禍福はあざなえる縄のごとし」。人間生きていれば、いいことも悪いことも必ず訪れる。だから悪い時をいかに少なくするか、どう今後に生かすのかということが大事じゃと思うんじゃけど、まさにそういう1年じゃったよ。

 それが最も表れたのが、8月5日の西武戦じゃった。13連勝の勢いもあった西武に8、9回だけで6点差を追いつかれたけど、延長で1点差で勝った。あの時にワシは100パーセント優勝できると思ったよ。今年のチームの強さは、それぞれのピッチャーが追いつかれても絶対に追い越されなかったこと。あの西武戦も追いつかれて、向こうがあの勢いじゃったら普通、負けるよ。でもサファテもグッと踏ん張って、打線もまた勝ち越した。岩崎も追いつかれたことは何試合かあったけど、追い越されなかった。去年の悔しさがあったからこそ、踏ん張れたんだと思うよ。

 投手も野手も、メンタル面で強くなったいうんかな。去年11・5ゲーム差をひっくり返されたことは、よかったとまでは言えないけど、長い人生で考えれば、それぞれにとっていい経験だったということ。優勝が見えても、浮かれることなく目の前の一試合一試合を勝ち取っていくという姿勢が揺るがなかったのも、悔しさがあったからこそだと思う。

 それと、みんながものすごく優勝というものを意識していたと思う。ワシも春季キャンプの初日に、ひと言だけ選手にこう言わせてもらった。「意識の差が結果の差。目標ありて結果あり」。どの球団もキャンプから優勝という目標に向かっていく中、このチームは、もし今年できなかったら去年の屈辱の比じゃないという危機感を全員が持っていたと思うよ。だからキャンプから誰も手を抜くことなく練習してきた。最後は、その意識の強さの差がこれだけのゲーム差につながったと思う。主力にけが人も多く出たけど、若い選手を起用しながら、工藤監督も忍耐強く我慢されていた。これも、選手と同じく去年の悔しさがあったからだと思う。

■“勝って当たり前”怖い

 ワシは、今年の優勝を果たした全員にこの言葉を贈りたいんよ。現役時代に松山(愛媛県)のあるお寺で見た、ワシの心の支えにもなっている言葉よ。「霜に打たれた柿の味、辛苦に耐えた人の味」。冬の霜に耐えた柿のように、人間も苦しさやつらさの数だけ深みや味が出るということよ。今年のチームは、この言葉に集約されると思うよ。

 ただ、ここからが大変。ワシごときが言うことではないけど、最近は夜寝られないことがあるんよ。CSで「もし負けたら」と思うとな。勝って当たり前という戦いは正直怖いよ。ただ、どんなことがあっても逃げられない。選手全員を信じて、(CSファイナルステージ初戦が始まる)18日の18時に工藤監督にベストコンディションで、選手を預けられるかがワシの仕事。日本シリーズに出られれば、絶対に勝てると思うとるから。

 なぜかというと、ワシは日本シリーズに5度出たんじゃけど、3度日本一になって2度負けた。その負けた相手は、2度とも工藤監督が主力投手でいた西武よ。特に(1986年の)1度目は、第1戦で引き分けて(広島が)3連勝。王手をかけながら、第5戦は最後に工藤監督にサヨナラヒットを打たれて、勝てる試合を落としたんよ。当時はDH制じゃなかったからの。

 そんな痛い経験をしとるから、日本シリーズの怖さも、戦い方も分かっとるつもりじゃ。そして、工藤監督は歴代最多タイの14度も日本シリーズに出ている。日本シリーズの戦い方は知り尽くしとるよ。ワシの5度とか比べものにならん。だからセ・リーグのどのチームが来ても負ける気がしないよ。

 だから、とにかくCS。監督もおっしゃっているようにチーム一丸で目の前のプレーを全力でやれば、何とかなると思う。ただ、簡単な戦いではないことも確かよ。全員で力を振り絞って戦っていく意味を込めて、最後は戦国武将、山中鹿之助のものと伝わる言葉と歌で締めたいと思う。「願わくば我に七難八苦を与えたまえ。憂きことのなおこの上に積もれかし限りある身の力試さん」。 (福岡ソフトバンクヘッドコーチ)

■今季ホークス復帰

 ◆達川光男(たつかわ・みつお)1955年7月13日生まれ。広島市出身。広島商高、東洋大からドラフト4位で78年に広島入団。正捕手として攻撃的なリードと打者に話しかける独自の戦術で活躍した。現役通算成績は1334試合で打率2割4分6厘、51本塁打、358打点。ベストナイン、ゴールデングラブ賞を各3度受賞。92年限りで現役引退し、95年にダイエーでバッテリーコーチ。98年に2軍監督で広島復帰し、99、2000年監督。03年は阪神、14、15年は中日でコーチを務め、野球解説者でも活躍。今季からソフトバンクのヘッドコーチ。右投げ右打ち。

=2017/10/11付 西日本スポーツ=

PR

PR

注目のテーマ