男子マラソン“快走”の理由 低迷抜けた1年、日本新連発の背景にあるものは

西日本スポーツ

昨年12月の福岡国際マラソンで厚底シューズを着用した大迫。今年10月に日本人初の2時間5分台をマークした 拡大

昨年12月の福岡国際マラソンで厚底シューズを着用した大迫。今年10月に日本人初の2時間5分台をマークした

シカゴ・マラソンで日本新記録を出し、日本実業団陸上連合から1億円の目録を受け取る大迫傑(右)=シカゴ(共同) 2月の東京マラソンで日本記録を更新した設楽悠太 8月のアジア大会を制した井上大仁

 日本の男子マラソンが活気づいている。2月の東京マラソンで設楽悠太(ホンダ)が2時間6分11秒の日本新を出して高岡寿成(現カネボウ監督)の記録を16年ぶりに破ると、10月のシカゴ・マラソンでは大迫傑(ナイキ)が日本人初の2時間5分台となる2時間5分50秒で日本記録を更新。8月のジャカルタ・アジア大会では井上大仁(MHPS)がこの種目で32年ぶりとなる金メダルに輝いた。長いトンネルを抜けた理由を大迫の話を通して探った。

 東京五輪、1億円、シューズ-。大迫は今年に入り日本記録が次々に更新された要因を挙げた。「一つは、東京五輪へのモチベーション。今までトラックで速い選手はマラソンを敬遠していた部分もあったけど、最近はトラックである程度走れる選手が(マラソンに)上がってきている」。大迫と設楽は1万メートルで16年リオデジャネイロ五輪に出場。東京五輪を目指し、能力の高いスピードランナーが早くからマラソンに挑戦する流れが生まれ始めた。

 背景には東京五輪代表選考会「グランドチャンピオンシップ(GC)シリーズ」の導入がある。最低2度、結果を出さなければならないGCシリーズは東京五輪3年前の昨夏にスタート。従来の五輪選考では、五輪直前の、たった1度のレースで好走して代表権をつかむ“一発屋”が出てくる可能性があったが、早くから42.195キロに挑戦する必要が出てきた。

 また、15年から日本実業団陸上連合は日本記録更新者に1億円のボーナスを支給する制度を設けた。この“ニンジン作戦”の存在についても、大迫は「大きいと思う」と認める。

 シューズは大迫や設楽が着用するナイキ社製の「超厚底靴」が注目を集めている。反発力のあるカーボンプレートを特殊な素材で挟んでいる点が特徴。シカゴでは3位の大迫の他、上位5人が“厚底”で、9月のベルリンで2時間1分39秒の世界記録を出したキプチョゲ(ケニア)も履いていた。「(トラックの)短い距離から上がってきた人たちには武器になる。蹴る動作が多い分、底が薄い靴だと疲労が残る部分があったが、それが軽減される」という。

 GCシリーズが始まって以降、16人がサブテン(2時間10分切り)を達成。日本陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーは「昔は自分も宗兄弟に勝とうとして頑張ってきて、それが相乗効果になって日本のマラソン界を盛り上げてきた。当時に似ている」と喜びを隠せない。

 2時間1分台に突入した世界記録とは埋めがたい差があるが、長年止まっていた時計の針が動きだしたことも事実。12月2日の福岡国際から今冬のGCシリーズが始まる。福岡国際には設楽もエントリー。針はまた大きく動くのか。(伊藤瀬里加、末継智章)

■三者三様の強化策

 現役で持ちタイム上位3傑の大迫、設楽、井上の強化方法は三者三様だ。大迫は日本の実業団を辞め、15年からプロランナーとして活動。「常に挑戦し続けられる環境にいたい」と米国に拠点を移し、現在はナイキと提携する「ナイキ・オレゴンプロジェクト」に所属している。

 オレゴンプロジェクトは米国の長距離強化を目的に誕生。大迫は男子の1万と5000メートルで五輪2大会連続2冠のファラー(英国)や、リオデジャネイロ五輪男子マラソン銅のラップ(米国)らの姿を見て、質量ともに高い練習を課してきた。

 設楽は練習で30キロ以上は走らず、マラソン練習で“定番”とされる40キロ走を行わない。代わりにトラック、駅伝と毎週のようにレースに出場して、高い負荷をかけて勝負勘を養う。公務員ランナーで来春からプロに転向する川内優輝(埼玉県庁)にも通じる方法だ。

 異色の2人に対し、井上は駅伝とマラソンを両立する日本の伝統的な方法で力をつけた。40キロ走など距離を踏む練習をこなしながら、1キロ3分を切るペースで押す駅伝でスピードを磨く。井上を指導するMHPSの黒木純監督は「走り込みをしっかりしているので、次の大会への移行もスムーズにできる」と説明した。

=2018/11/14 西日本スポーツ=