松野明美の元ライバルが明かす苦悩の過去 五輪逃し摂食障害、髪の毛が抜け…

西日本スポーツ

 女子アスリートにはエネルギー不足が原因の無月経や疲労骨折など、特有の問題も多い。陸上長距離で活躍した出水田(旧姓田村)有紀さん(51)はかつて、五輪代表争いに追い詰められる過程で摂食障害を経験した。母として娘を実業団所属のトップ選手に育て、現在は神奈川県内の高校でコーチを務める出水田さんの言葉から、全ての女子アスリートに起こりうる「心と体」の問題に迫った。(伊藤瀬里加)

 出水田さんは神奈川・荏田高を卒業後の1986年に日産自動車に入社し、88年には1万メートルで松野明美さんとソウル五輪出場を争った。摂食障害に陥ったのはわずかな差で同五輪出場を逃した選考レースの直後だった。練習中に故障。病院の待合室のテレビで五輪を走る松野さんの姿を見て、焦りが募った。

 もともと「(五輪を期待した)周囲の盛り上がりと実力が合っていない」と感じていた時期。「復帰後に走るためには、体重を増やせなかった。目に触れるものの糖分、油分を全てチェックして食べないようにした」

 痩せなければとの思いからキャベツ、こんにゃく、キノコばかりを食べて空腹を満たした。体重は半年で10キロ減の33キロになった。太ももよりもひざの関節の方が太くなり、歩くのも精いっぱい。髪の毛や産毛が次々と抜けた。月経も止まった。婦人科を受診すると「もう子どもを産むことができないかも」と言われたこともあった。「何とかしないといけないと思ったけど、なかなか抜け出すことができなかった」。何件も病院を回って治療を続けたが、回復のきっかけは身近なところにあった。

 日産自動車で男子を指導していた白水昭興監督(現日清食品グループ総監督)から「環境を変えた方がいい」と勧められ、男子部員の合宿に同行。「男子選手はガンガン食べて、ガンガン走っていた。刺激になった。(変に気を使わず)雑に扱ってくれたことで、気持ちも前向きになった」。90年の年明けには体重が40キロまで戻り、同年秋に福岡で開催される国体出場を目標に走り始めた。

 復帰後初の全国大会だった福岡国体は成年女子共通5000メートルを大会新記録で制した。その後、五輪出場はかなわなかったが、マラソンにも挑戦。結婚し、29歳で長女の真紀を出産した後も31歳まで現役生活を続けた。

 後になって「預かった以上、普通の20代に戻すことが仕事」と白水監督が話していたことを聞いた。引退後は日産自動車に勤務しながら、神奈川の強豪、白鵬女子高のコーチとして指導に当たっている。娘も中学で陸上を始め、高校時代は同校で競技に励み、大学を経て、現在は実業団の強豪、第一生命で活躍する。

 選手には定期的にメディカルチェックを受けさせて骨密度や筋肉量を調べ、月経の有無も確認する。「スポーツは自己表現の一つ。楽しみながら努力して、表現できる場所で輝くことが一番」。娘にも生徒にも、幸せな競技人生を送ってもらうことが願いだ。(伊藤瀬里加)

■無月経、疲労骨折の問題も

 女性アスリート特有の健康問題は、月経痛や月経前症候群(PMS)など月経が来ることによって起こるトラブルと、無月経の二つに大別される。前者の方が圧倒的に多く、不調を直接的に実感するが、後者はすぐに影響を感じるわけではない。聖路加国際病院(東京)副院長で女性総合診療部部長の百枝幹雄氏は「月経がないと便利という考えをしている人がいるが、医学的にはより深刻な問題」と指摘する。

 無月経はエネルギー不足と骨粗しょう症に密接に関連。これらの健康問題は「女性アスリートの三主徴」と定義されている。激しい運動によるエネルギー消費量が、食事などでの摂取量を上回った状態が続くと、卵巣から出るホルモンが減少し、視床下部性(運動性)無月経となる。このホルモンは骨量の維持にも関わり、不足すると疲労骨折が起こりやすくなる。

 女性は10代後半が骨量のピークで、この時期までに十分な骨量を確保できないと、将来的な骨の健康にも影響を及ぼすリスクが高まる。三主徴は陸上長距離など持久系や、体操やフィギュアスケートなど審美系、減量を必要とする階級制の競技者に多く見られる。

 将来の妊娠への影響について百枝氏は「一般の人と比べると(鍛えられた)アスリートは基本的な体の健康度がかなり高いので、単純には比較できない」と前置きした上で、「不妊治療しないと妊娠しない人もいる」と話した。

=2018/11/30 西日本スポーツ=

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