“ツヨカワ”剣士が高校日本一 幼なじみとアベックV

西日本スポーツ

 8月上旬に熊本市であった全国高校総合体育大会(インターハイ)の剣道で「王国九州」の剣士が躍動した。

 団体の男子は九州学院(熊本)が2年連続8度目の優勝を飾り、女子は中村学園女子(福岡)が4連覇を達成。個人の男子は池田龍ノ介(福岡大大濠3年)、女子は福岡市出身の柿元冴月(茨城・守谷3年)がそれぞれ初優勝を果たした。

 福岡県那珂川市の那珂川北中3年時に個人戦で「中学チャンピオン」となった柿元は真っすぐ、前に攻める剣風に憧れ、親元を離れて関東の強豪、守谷に進学した。普段のふわりとした物腰からは想像もつかない豪打の大将として君臨した一方、全国の主要大会では宿敵の中村学園女子の厚い壁に阻まれ、頂点にあと一歩届かない準優勝ばかりだった。高校最後の全国総体も団体予選で三養基(佐賀)に敗れた。残された試合は個人戦のみ。追い込まれ、なえそうになる気持ちを奮い立たせたのは、幼なじみであり「心のきょうだい」からの励ましだった。

■幼なじみの「龍虎」

 4歳から竹刀を握った柿元は、福岡市の曰佐小1年から道場の「福岡如水館」に通った。競うように腕を磨いたのが、同級生で後に福岡大大濠に進学する池田兄弟。柿元が親しみを込めて「龍虎(りゅうとら)」と呼ぶ、龍ノ介と虎ノ介の双子だった。

 「小学1年からずっと一緒で小学校の時は私が大将だった。団体戦では5人のうち男子が4人で、彼らを引き連れていた(笑)。今はかなわないけれど、途中まで背は私が高かったし、中学の最初の頃までは勝っていた」。ライバルであり、親友であり、家族みたいな存在。高校は福岡と茨城に分かれても、関係は変わらなかった。

 その双子に怒られたのは個人戦2回戦。延長で勝ったとはいえ、相手にポイントを奪われての辛勝だった。「おい、下がりすぎだぞ」。勝ちたい気持ちが強すぎるあまり、硬くなっていたのを見透かされた。

 福岡大大濠は今夏、全国総体の団体戦出場を逃しており、会場では個人戦に出場した龍ノ介に、弟の虎ノ介がサポート役で付き添っていた。「俺は(インターハイの)団体に一緒に出られなかった大濠の仲間たちの思いも背負って個人戦に臨む。だから、おまえも負けるな」。全国総体の直前に福岡市で行われた玉竜旗では福岡大大濠も守谷も準優勝どまり。日本一へのラストチャンスに全身全霊を懸けようとする龍ノ介のプライドに胸を打たれた。「あのひと言で吹っ切れたというか、自分らしく、がんがん攻めようと気持ちをうまく切り替えられた」。心の可動域がぐっと広がり、足が動いた。2本勝ちした3回戦以降は積極的に仕掛けつつ、相手の動きを冷静に見極める隙のない剣さばきを披露。龍ノ介も有言実行で勝ち上がった。

 九州を縦断した台風8号の影響で決勝当日の試合進行が変わり、決勝は当初1コートでやるところを2コートの男女同時で実施した。「龍ノ介と同じ場所、同じ時間に戦うことになって、私としては逆に良かった」。川合芳奈(東海大静岡翔洋2年)との頂上決戦。相手と対峙(たいじ)しながらも、柿元は龍ノ介の方に時折、視線を送っていた。「向こうが勝った瞬間、次は私だ、と」。決勝を含む7試合のうち6試合が延長。「(正規の)4分が終わったらエンドレス。でも、どれだけ時間をかけても『自分ならできる』と勝つ自信があった」。最後は得意技の飛び込み面を決めて、令和最初の個人女王になった。優勝を決めた瞬間は出なかった涙。駆け寄ってきたチームメートの泣き顔が大きな目に映った瞬間、せきを切ったようにあふれた。

■剣道日記の表紙に記した言葉

 自分のためだけに頑張るのは限界がある。お世話になった人、支えてくれた人、応援してくれた人のために恩返しをしようとする姿勢が土壇場での底力になることを、改めて知った。「個人戦の時、体勢を崩して倒れたことがあった。起き上がったときに、ものすごい歓声が湧いて…。私が技を取ったときも守谷の応援席ではないところから拍手が聞こえてきた。ああ、九州の方も応援してくださるんだと、本当にパワーをいただいた」。故郷に近い場所で、柿元は実感したという。

 3年間つけてきた剣道日記は14冊にのぼる。最近のノートの表紙に記した「人事を尽くして天命を待つ」の筆跡は力強く、太い。「3年生はインターハイに入る前の時点で書くことを免除されていたけれど、どうしてもやめられず、短くても、その日の心境を書いていた。日記を目にする先生(塚本浩一監督)は、私のことを分かってくれていると信じていたので」。自分の心と向き合う大切な時間。心情をつづると、願い事がかなうような気がした。優勝した6日の日記。塚本監督のことを表す「茨城のお父さんへ」で始まった日記は、感謝の言葉が並んだ。

 今秋に学校の地元茨城で開催される国体が正真正銘の高校最後の大会となる。卒業後は大学への進学を希望。将来は、守谷の先輩でもある高橋萌子(神奈川県警)が現在2連覇中の全日本女子選手権を制することが目標だ。「今は、好きな剣道に打ち込めることに感謝している」と前置きし、柿元の口から出てきたのは、白血病で競技を離れ、治療に専念している競泳女子の池江璃花子の名前だった。

 「病名は違うけれど、私も病気にかかって休んだことがあり、今も病と闘っているので、余計に池江さんのことが人ごとと思えない。応援させていただいているし、逆に勇気をいただいている」。清く、強く、美しく-を地でいく華麗な剣士が、剣道の神様から“アベックV”のプレゼントを贈られたのには理由があった。(西口憲一)

PR

剣道 アクセスランキング

PR

注目のテーマ