ソフト上野の顎骨折は“必然” 復帰前に宇津木監督が伝えたこと

西日本スポーツ

 ◆ソフトボール、ジャパンカップ国際女子大会(30日・群馬県高崎市)

 高崎市ソフトボール場(宇津木スタジアム)で開幕し、日本はチェコに13-0の4回コールドで圧勝し、初戦を白星で飾った。4月末に顎を骨折し、この日が復帰登板となった上野由岐子(ビックカメラ高崎)は最速118キロの真っすぐとライズボールで1回を3奪三振の無失点。約4カ月のブランクを「神様が与えてくれた時間」と感謝すれば、エースの復活を後押しした宇津木麗華監督は「神様からのプレゼントだった」と表現。東京五輪での金メダル獲得に向け、固い絆で結ばれた2人が大きなピンチを乗り越えた。

 高みを追求する上野らしく、復帰登板後の自己採点は「30点」と辛口だった。制球、球の質、集中力…。減点材料をこれでもかと挙げながら、それでも表情は穏やかだ。「(宇津木監督からは)とにかく『顔に当たらないように投げなさい』と言われました」と笑顔で明かした後、さらに「打者に当てても自分(上野)には当たらないようにしなさい、とも言われました」と補足した。故意に当てることはありえない。しかし、打者に当てるぐらいのつもりでというのは宇津木監督の本心でもある。「日本の打者相手に投げるとき、彼女ほどスピードボールを投げる投手は日本にいない。だから、打者はよけきれないし、けがにつながる。性格的に優しい彼女はこれまで内角を突くことが少なかった」と振り返った。

 上野がピッチャーライナーを受けた4月27日の日本リーグの試合。右打者に打たれた球は外角のチェンジアップだった。「その直前の真っすぐに打者は全くタイミングが合っていなかったが、それなのにチェンジアップを外に投げた。だからバットに当たって、ああいう打球になった。チェンジアップの分だけ、投げ終わったあとの捕球動作も遅れてしまった」。けがに至った要因を“不運”や“偶然”で片付けず、宇津木監督は“必然”と位置づけ、徹底的に分析。「今年はリーグ戦に入る前、打者相手に投げる機会が少なかったように感じていた。足りなかった実戦感覚が打球への反応につながった面もあるのでは」と、起きるべくして起きたと言い切る。こうした経緯を踏まえ、宇津木監督は上野が日本代表に合流する直前の8月中旬、自らの考えを正直に伝えたという。上野の骨折箇所にはプレートが埋め込まれている。再び打球が当たるようなことが起きれば東京五輪はおろか、選手生命の危機に直面する。「今度当たったら、それこそソフトボールをやめなければいけなくなる可能性だって出てくる。だったら『やるか、やめるか』の二者択一。それぐらいの強い覚悟で、私は投球スタイルの見直しを彼女に勧めた。言えるのは私しかいない」。上野のことを思うがゆえの“親心”としての行動だった。

 宇津木監督は上野の復帰登板となったこの日の試合前、しみじみと語った。「今回のけがで彼女は傷(骨折)を負ったけれど、長い目で見れば神様からのプレゼントだったのかもしれない」。時間とプレゼント-。表現は違っても中身は同じだ。試合後の上野は心境を包み隠すことなく、報道陣の前で披露した。

 「けがをしたことで自分自身がソフトボール、オリンピックに対してどういう思いだったのか、これからどうしていきたいのか、何をしなければいけないのか、いろんなことを考える時間をもらった。進化していくために、新しいものだったり、考えをあらためたりしながらやっていかないといけない。そのきっかけを与えていただいた。基本ポジティブなんですけれど、逆にけがをして良かったかなと。今まで通りが本当に良かったのか、というのを逆に考えさせられた。神様が何かを気付いてほしいと思って与えてくれたのかなと」。心が折れるどころか、逆に強くなって帰ってきた。あるべき場所にあるべき姿で戻ってきた。手術後は口が開けられず、流動食に大苦戦。改善されていく食生活を「記念日」として写メに残してきた。2019年8月30日は、上野由岐子が新しい一歩を踏み出した、もう一つの忘れられない「記念日」になった。

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