工藤監督宿命の日本一 阿須加が叫んだ「セコムのおじちゃん」から20年

西日本スポーツ 倉成 孝史

 ◆SMBC日本シリーズ2019第4戦 巨人3-4ソフトバンク(23日・東京ドーム)

 令和初の頂点に立ち、ホークスの歴史を塗り替えた。球団史上初の3年連続日本一で、球界史上初の2年連続「下克上」。クライマックスシリーズ(CS)ファーストステージ(S)第2戦から10連勝で、10度目のVだ。19年前の「ON対決」で苦杯をなめさせられた巨人を4勝0敗で圧倒し、福岡移転後30周年の年にセ全球団を倒した。日本シリーズは8連勝で、工藤公康監督(56)が10度、東京ドームに舞った。最高殊勲選手(MVP)には、この日の先制3ランを含む3本塁打のジュリスベル・グラシアル内野手(34)が選ばれた。

■19年の時を経て刻むONとの数奇な運命

 将は喜びを示すように、選手会長の柳田と抱き合った。そしてナインの手で10度宙を舞った。長嶋巨人が王ダイエーを退けた「ON対決」から19年。巨人のエースだった左腕が、それ以来の対戦で今度はホークスを率いて巨人を倒す数奇な運命の中にいた。

 「あまり覚えてないんだ」。東京に乗り込む直前。コーヒーの湯気の中でポツリと漏らした。19年前。巨人の第1戦先発としての記憶はおぼろげ。「あの時は藤井のこともあったから…」。無意識のうちに脳裏から消した節もあった。

 シリーズ開幕を8日後に控えた2000年10月13日、ダイエーの中継ぎで活躍した藤井将雄投手が31歳の若さで死去。前年までダイエーにいた工藤監督を兄と慕った。弱小チームの殻を破ろうと、ともにもがいた。泣きながらひつぎを担いだ後、臨んだマウンド。勝ち負けなしながら7回3失点で大役を全うした。

 運命というより、宿命なのかもしれない。ONから薫陶を受けた野球人が令和の初代日本一監督になったのは必然とも言えた。1999年。エースとしてダイエーを初の日本一に導いて王監督を胴上げした。だがそのオフ、球団フロントとの摩擦で移籍を決意。複数の米球団から興味を示され、メジャー挑戦を考えていた中、当時の巨人長嶋監督との縁が生まれた。

 12月。福岡のなじみの店でちゃんぽんを頼んだ後、携帯電話が鳴った。夫人からで、長嶋監督が福岡空港に来ているという。丼の中身をかき込み、慌てて帰宅。「あっ、セコムのおじちゃんだ!」。当時8歳で現在俳優の長男・阿須加の口を「バカ、何言ってんだ」とふさいだ。「男の花道を飾ってくれ」。長嶋監督に見つめられた。翌日、巨人行きを決めた。

 迎えたON対決。シーズン12勝も終盤に右ふくらはぎ肉離れで離脱した。それでも初戦を任された。普段は良しとしない勝敗なしで唯一「今考えると良かったんじゃないかな」と思えた試合。天国の弟分、前年にようやく日本一をつかんだ王監督への複雑な思いを抱えてのマウンドだった。

■2人から学んだ指揮官としての姿勢

 通算224勝を挙げて実働29年で引退。14年オフ、再びその体に「ホークスの血」を流したのは因縁の王球団会長だった。直接、監督就任を要請された。筑波大大学院に通い、子供らへの野球教室をライフワークに生きる決意を固めた時期。「王会長からでなければ断っていた」。就任5年で4度目の日本一。恩人の見果てぬ打倒巨人の夢を乗せ、恩返しした。

 守備ではベンチに座り、攻撃では立つ。投手を落ちつかせて野手を鼓舞する所作は、長嶋監督を範にする。王監督から学んだ勝利への執念は、一見非情でも短期決戦でさえた。加えた「工藤流」は神眼。自宅の6台のモニターに今年はデータ解析用の大型を追加した。日本シリーズ進出が決まると、ほぼ徹夜で坂本勇、丸の映像を再生。「指示」でなく「ヒント」の体で、素材として兵に伝えた。

 西武のフロントで長嶋監督招請に動いたと伝えられる故根本陸夫氏が、後にダイエーのフロントとして王監督を招いた。工藤監督自身はプロ入り時とダイエー移籍時に深く関わった。3年連続日本一が黄金期の西武以来なのも奇妙な縁だ。「まだまだ強くなれるチーム。もっと強くなれるようにみんなで頑張りたい」。球史が交差した令和最初のシリーズ。盟主を圧倒して頂に駆け上がった。工藤監督が見渡す新時代に、歴史の影は長く、色濃く伸びている。 (倉成孝史)

   ◇    ◇

 内川「チームにスイッチが入ってからは本当に強かった。いい思いをさせてもらってよかった」

 松田宣(第2戦で先制3ラン。優秀選手に)「チームが後のない状況から勝ちきって、本当に強いなと実感した」

 今宮(4回に左前打を放ち、グラシアルの3ランを誘発)「日本一はいいですね。でもシーズンは2位だったことはしっかりと胸にとどめておかないといけない」

 甲斐「(日本シリーズでは)最初からプランを立てて遂行できた。最大7戦しかないけど、上位(打線)は30打席くらい回る。そこを考えてしっかり対策できたと思う」

 周東(9回に代走で出場もけん制死)「後味が悪いですね。一年通して1軍にいられたことより、きょうの失敗の方が印象に残る。(11月の)プレミア12ではよりきつい場面もあると思うし、こんなミスをしないようにしたい」

 高橋礼(第2戦で7回無失点の好投。優秀選手賞に)「初戦の千賀さんのピッチングがすごく大きかったし、松田(宣)さんが(第2戦で7回に)ホームランを打ってくれたからこそ、自分が受賞できた。感謝です」

PR

福岡ソフトバンクホークス アクセスランキング

PR

注目のテーマ