二十歳の右腕に問う「あなたが投げるのは球ではない」

西日本スポーツ

 東京五輪で日本選手団の先陣を切って登場するソフトボール女子日本代表の宇津木麗華監督は、北京五輪以来となる金メダル獲得の期待を担う中で令和を迎えた。

 生まれ故郷の中国から昭和に来日。選手や指導者として平成を駆けた。一度は五輪から除外された期間の苦しさを知るからこそ、選手には日本代表として五輪で戦う意味や価値を問い続ける。東京五輪を「競技人生の集大成」と言い切る宇津木監督が思いを語った。

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 ソフトボールと五輪の関係は、出合ったり別れたりしながら、ゆらゆらと揺れてきた。2024年のパリで外れても、競技そのものが地上から消えてなくなるわけではない。28年は野球熱が高く、ソフトボールも盛んな米国のロサンゼルスで開催される。今の女子日本代表の大半は、08年の北京で金メダルを獲得した日本代表の雄姿に憧れ、夢を追い続けてきた。来夏の東京で勝つのはもちろん、「東京」後の未来予想図を描くことも私の使命だ。

 今秋発表した20人の強化指定選手に18歳の後藤希友(トヨタ自動車)を選んだのも28年を見据えた計画だ。愛知の東海学園高時代から将来を嘱望された左腕で、ドロップで打者を翻弄(ほんろう)する。10月上旬に福島であった日本リーグの試合では上野由岐子(ビックカメラ高崎)と投げ合った。ネット裏から見て、新人離れしたマウンドさばきが印象に残った。上野が北京五輪で真のエースになったのは26歳。投手は成長に時間がかかる。代表活動などで上野や藤田倭(太陽誘電)と同じ時間を過ごしながら、心技体のレベルアップに努めてほしい。

 20歳の右腕、勝股美咲(ビックカメラ高崎)の名前も挙げたい。岐阜の多治見西高出身の2年目。ライズボールの使い手で、今年は日米対抗やUSAインターナショナルカップでも好投した。一方で高めに辛い審判との相性が悪いと自滅するもろさも併せ持つ。澄んだ瞳をした素直な性格で、こつこつと努力を重ねるタイプながら、もう少し“あくの強さ”が欲しい。

 投手の命は指先に宿る、と思っている。先日、私は勝股にこんな話をした。

 「あなたは自分の指先に魂を込めていますか。あなたが投げるのはボールではありません。投手は『信念』を投げるんですよ」

 打たれた打者に対して、次の対戦で体の近くに投げ込めるか。私が見たいのはそういう姿。10年選手のような優等生の受け答えはいらない。たとえ不調でも「絶好調です」と平然と言い切るずぶとさ、演技力を身に付けないと、国を背負う投手にはなれない。

 上野が健在だから日本は強い-。五輪で対戦する各国の共通認識だろう。忘れてはいけないのは、来年38歳の上野が永遠にユニホームを着ているわけではないこと。いつの日か現役を退き、背中を見ることができなくなるのは日本が弱くなる可能性を秘めている。

 右の勝股と左の後藤。この2人で競争しながら、今の上野と藤田のような二枚看板に育ってほしい。あの上野に挑みかかるように後藤が若さをぶつけた福島でのリーグ戦。その1日前、ビックカメラ高崎が伊予銀行に10-1で勝った試合で勝股は完投勝利を挙げた。ピンチを招いた終盤、先輩野手からもらったボールを自分のグラブに投げつけていた。何かをつぶやきながら投げていた。きっと指先に魂を込めていたのだろう。彼女の中に潜む、もう一人の勝股を見た気がした。 

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 宇津木 麗華(うつぎ・れいか)1963年6月1日生まれ。中国・北京市出身。元中国代表。88年来日、95年日本国籍取得。現役時代は内野手で日本代表の主砲、主将として活躍し、シドニー五輪銀メダル、アテネ五輪銅メダル。2003年に日立&ルネサス高崎(現ビックカメラ高崎)の選手兼任監督就任。04年に現役引退後は11年から15年まで代表監督を務め、12、14年の世界選手権優勝。16年11月、再び代表監督就任。群馬女子短大を聴講生として卒業。右投げ左打ち。

 (ソフトボール女子日本代表監督)

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