日本刀の記憶 王さんから授かった「究極」の極意

西日本スポーツ

 東京五輪で日本選手団の先陣を切って登場するソフトボール女子日本代表の宇津木麗華監督は、北京五輪以来となる金メダル獲得の期待を担う中で令和を迎えた。

 生まれ故郷の中国から昭和に来日。選手や指導者として平成を駆けた。一度は五輪から除外された期間の苦しさを知るからこそ、選手には日本代表として五輪で戦う意味や価値を問い続ける。東京五輪を「競技人生の集大成」と言い切る宇津木監督が思いを語った。

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 野球選手なのに日本刀を振っている。しかもグラウンドではなく部屋の畳の上なのだ。中国でソフトボール少女だった頃、私はビデオの映像にくぎ付けになった。天井からぶら下がった短冊状の紙切れを信じられないスピードと絶妙の間合いで切っていく。この神業の主こそ、プロ野球、巨人の主砲で「世界のホームラン王」と呼ばれた王貞治さんだった。台湾との深い縁も親近感をより深めた。

 競技に関係なくスポーツ界の神様。私にとっては永遠の憧れ、いや憧れよりもっと上の大先生だろう。東京五輪開幕1年前の今年7月24日、福岡ソフトバンクの球団会長でもある王さんと同じ時間を過ごす機会に恵まれた。場所は福島市。野球を1試合、ソフトボールを6試合実施する福島県営あづま球場の視察をご一緒させていただいただけでなく、イベントでは貴重なアドバイスも受けた。

 「七回裏2死満塁、カウント3ボール2ストライクでボール球なら見逃す練習をすれば、自信がつく」

 随分とお痩せになられていたけれど「王貞治」の心持ちが変わったわけではない。座右の銘でもある「氣力」を大切にされてきた王さんの言葉の真意。私は「自分を信じる勇気」だと受けとめた。東京五輪の決勝、仮に相手が米国とする。負けている状況、同点で“その場面”を迎えたとき。打ちたい気持ちにはやった打者が重圧の中、冷静かつ自信を持って堂々と見逃すことができるか。コースや高さといった単純な見極めではなく、打撃全般に通じることだ。まず相手投手の投球の特徴を知らなければいけない。そのためにはフォームや表情、癖などから配球の傾向を覚え、情報として頭にたたき込んでおく必要がある。「イチ、ニー、サン!」のタイミングで振りにいくだけで結果を出すのは難しい。練習に裏打ちされた自信、技術や思考の引き出しがないと勝負はできない。思い入れの強さだけで強敵は倒せない。

 王さんは「野球と同じ」と前置きして、金メダル獲得に必要なキーワードとして「頭脳的なものであったり、チームワークであったり。それは多くの国民の皆さんに楽しんでもらえるソフトボールという競技の魅力だから」とおっしゃった。常日頃感じていることを「世界の王さん」の口から…。会話の間、私は緊張しっぱなしだった。野球とソフトボールではタイミングの取り方が異なるため、現役時代に「一本足打法」を取り入れることはなかった。でも、今回福島で授かったお言葉はぜひとも参考にさせていただきたい。

 代表選手が所属チームで戦う日本リーグ女子も、優勝チームが決まる17日で終了。18日からは東京五輪のもう一つの会場、横浜スタジアムで選手20人による代表合宿をスタートさせる。8カ月先をイメージしながら、悔いのない準備をしなければいけない。自分を信じる勇気を培うために、二度とやって来ない一打席、一球と向き合っていく。

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 宇津木 麗華(うつぎ・れいか)1963年6月1日生まれ。中国・北京市出身。元中国代表。88年来日、95年日本国籍取得。現役時代は内野手で日本代表の主砲、主将として活躍し、シドニー五輪銀メダル、アテネ五輪銅メダル。2003年に日立&ルネサス高崎(現ビックカメラ高崎)の選手兼任監督就任。04年に現役引退後は11年から15年まで代表監督を務め、12、14年の世界選手権優勝。16年11月、再び代表監督就任。群馬女子短大を聴講生として卒業。右投げ左打ち。

 (ソフトボール女子日本代表監督)

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