質問魔だった野村克也さんの言う「技術以外の戦力」/藤原満

西日本スポーツ

 インタビュー企画「キーマンに聞く」の春季キャンプ編第5弾は、今季から背番号19をつける甲斐拓也捕手(27)を、本紙評論家の藤原満氏が直撃した。ホークスの捕手が19番を背負うのは、11日に84歳で亡くなった野村克也さん以来、43年ぶり。入団の経緯や母子家庭で育ったことなど野村さんとの共通点も多い扇の要の覚悟に、南海時代にともにプレーして19番の輝きを誰よりも知る藤原氏が迫った。 (構成=相島聡司、本文敬称略)

 藤原 野村さんの訃報は本当に残念だった。わしは(野村さんが)プレーイングマネジャーの時に一緒にやって、確率の高い野球、1点を取って勝つ野球を徹底的に教えてもらった。拓也もこれまでにいろんな話をしてもらったんじゃないか。

 甲斐 はい。(野村さんの)本も読んで、何度かお会いさせてもらって。

 藤原 当時は(ヘッドコーチに据えた)ブレイザーの「シンキング・ベースボール(考える野球)」があって、基本も徹底してやった。そんなにいい選手はいなくても、一人ずつがきちんと仕事をすればチームは強くなるという野球やな。キャッチャーは冷静な判断力や洞察力、そして投手をどう観察できるかが大事じゃないかな。

■投手との「信頼」必要

 甲斐 僕はまだまだです。

 藤原 野村さんは「野球とは」「キャッチャーとは」みたいなことをよく質問してくる方だった。日本シリーズにも出たし、「キャッチャーとは」は分かりつつあると思う。

 甲斐 まあ…。でもまだまだ分からないことだらけ。まだまだです。

 藤原 大変な仕事やからね。制球のいい投手もミットを構えたところにどれぐらいくるか。それに自分の配球で打たれるときもあるし、失敗しても打たれないときがある。

 甲斐 難しい仕事ではあります。ピッチャーがちゃんと投げても打たれるときはあるので。

 藤原 ビッグゲームも経験していろいろな経験を積んで、これからが大事。去年は137試合に出たけど、やはり143試合全てでマスクをかぶりたいというのはあると思う。

 甲斐 やっぱり全部出たいですね。そこの欲はやっぱりあります。

 藤原 そこが一番求められる。今の野球は先発投手の投球回数も少なくなりつつあるし、後ろの投手がしっかりしているのが強い条件でもある。多くの投手をリードする上での配球の難しさもある。

 甲斐 毎試合、投手の状態も調子も違うし、球場やマウンド、相手チームによっても変わることがあるので。そこは早く把握しなくちゃいけないし、大事にいきたいと思います。

 藤原 その点、千賀とはいつも組んでいる。

 甲斐 それでも分かり切れていない部分はあると思います。千賀はもちろん、他の投手の方ともなるべく多くの時間を一緒に過ごして、コミュニケーションを取っています。

 藤原 捕手というポジションはチームの要。信頼関係が大事になるが、そこはできていると思う。

 甲斐 まだまだです。自分には足りない部分が多いし、もっともっと信頼という部分が必要です。

 藤原 打撃でも貢献したいと言っていた昨季は打率2割6分を打った。目標だと言っていた打率2割8分には届かなかったが、いいところまでいった。

 甲斐 まだまだ頑張りが足りなかったですね。そこまでいけば、チームにももっと貢献できていると思いますし、そこはいきたいところでもあります。去年は今までよりいい数字を残せたんですけど、納得も満足もしていません。

■プロ10年目勝負の年

 藤原 居残り特打も遅くまでやっていたし、本当によくやっている。ところで(2年前に)結婚して全然変わったやろ。

 甲斐 子供の顔を見たときに「やっぱり頑張らないといけないな」と本当に思います。帰って、きついな、つらいなというときでも、子供の無邪気な笑顔に元気をもらっています。

 藤原 自分が子供を持ったときに「親ってありがたいな」と感じる。

 甲斐 親のありがたさは本当にそう思いますね。子供を育てるのはこんなに大変なんだ、と。それを自分の母親がやってきたんだと考えたときに「すごさ」を感じました。

 藤原 親に野球をさせてもらって、食事の準備や洗濯もしてもらってな。

 甲斐 僕は母子家庭で兄と2人兄弟だったんですけど、お金がかかる野球を2人ともさせてもらった。母にはとんでもないきついことをさせていたんだなって。本当にかなわない存在だと思います。

 藤原 子供が生まれると一つ大人になれると思う。実際に体験するとすごいことやろ。

 甲斐 本当にそうですね。僕も母と同じように子供に気持ちを伝えたいなと思いますし、実際に母からしてもらったことを、僕もやっていかないといけないなと考えています。

 藤原 野村さんも苦労して育った方だった。精神的に大人になることで相手の気持ちが分かるし、戦いで相手の裏もかける。

 甲斐 そうですね。

 藤原 われわれは野村さんに「技術以外のぼやきや話術も戦力」と言われた。「きょうは(投手の)球が抜けとるな」とか独り言を言ったら、打者も「本当かいな」と腰が引けることだってある。心理的な駆け引きも一つの力になる。

 甲斐 大事な部分だと思います。勉強することはたくさんあります。

 藤原 今年の目標にはリーグ優勝がある。

 甲斐 自分の一番はやはりリーグ優勝。そこしか考えていません。ここ2年は本当に悔しかったし、このキャンプも「リーグ優勝のためにはどうしたらいいか」と取り組んでいます。プロ10年目で背番号も変わり、個人的にもチームとしても本当に勝負の1年。そのためにはもっと力をつけて、もっとチームに貢献しないといけない。

 藤原 西武がレギュラーシーズンで2年連続優勝したけど、西武のあの雰囲気はいい勉強になった部分もあるんじゃない。

 甲斐 西武はすごく雰囲気がいいですよね。ホームでファンの勢い、声援が一気にくるような感じもすごいし、他にはなかなかない空気だと思います。

 藤原 勝っても何か変な雰囲気になる。

 甲斐 それに負けているっていうところが本当に悔しい。キャッチャーというのもありますし。とにかく一番になりたい。勝ちたいですね。

 藤原 改めて野村さんの話になるけど、本当に勉強家だった。相手の隙を突いたり、癖を研究したり。頭の回転が速いし、洞察力や読みがすごかった。

 甲斐 そういったところは自分に足りないと思うし、見えていなかった部分が見えるように必死に努力しないといけない。これからはそこが必要になってくると思います。

 藤原 どんな19番にしたい。

 甲斐 野村さんが19番をつけていたけど、最近はキャッチャーの背番号は2番や27番みたいになっていて、19番は投手の背番号みたいになっていた。そこを僕は変えたい。僕はどこのキャッチャーにも負けたくない。今は一番のキャッチャーになれるように、19番で自分のものをつくっていければと思います。

 藤原 日本代表のキャッチャーやからね。日本一ぐらいじゃいかん。東京五輪もあるし、世界を見ないと。大きく、大きくな。

 甲斐 (五輪は)野球人としてこんなチャンスはめったにない。そこで野球をしたい気持ちはあるけど、そのためには金メダルを取れるだけの個人の力が必要。自分はもっと力をつけないと選ばれないと思う。ただ、シーズンも前半があるし、そこでチームを勝たせていけるようになれれば、変わってくるかなと考えています。

 ◆全試合出場は過去2人 南海、ダイエー、ソフトバンクの捕手でシーズン全試合出場は野村克也(6度)と城島健司(4度、アテネ五輪出場の04年を含む)の2人。全試合に捕手で先発は野村4度、城島が04年以外の3度で、野村は63年、城島は03年に全イニング出場した。19を22年間つけた野村以降の捕手で長かった番号は2と27。城島は入団した95年から米メジャー移籍前の05年まで2をつけた。

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