井上康生監督の涙で思い出した山下泰裕氏の言葉「本当にかわいそうなのは」

西日本スポーツ

 【記者コラム】

 2年前の秋にあった懇親会の席で、全日本柔道連盟(全柔連)会長で現在は日本オリンピック委員会の会長も務める山下泰裕氏からこんな話を聞いた。

 「本当にかわいそうなのは五輪で負けた選手ではない。紙一重で出場できなかった選手たち」

 その後も何度か同じような話を耳にしたので、山下会長の核となる考えの一つなのだろうと思っている。自身は1984年ロサンゼルス五輪の金メダリスト。だがその8年前のモントリオール五輪は補欠、4年前のモスクワ五輪では代表に選ばれながら日本がボイコットしたため出場はかなわなかった。「出られない」ことの悔しさも十分に知っている人だからこその、重い言葉だ。

 2月27日、今夏の東京五輪に出場する日本代表発表会見が行われた。男子の井上康生監督の涙を見て思い返したのが、冒頭の山下会長の言葉だった。あと一歩で代表を逃した選手の名前を1人ずつ挙げながら、男泣きした井上監督。後日の自らの会員制交流サイト(SNS)では、会見中に泣いたことを「我慢すべきことだった」と反省すると同時に「代表になれなかった選手のことを忘れてはならない」と改めてつづっていた。

 東京五輪の代表選考に当たって、全柔連は初めて早期内定制度を採用した。4月の最終選考会を待たず、2月までに全14階級のうち13階級で代表が決定。五輪で金メダルをつかむか、逃すかでその後の選手の人生は大きく変わる。銅メダルの3位とメダルのない4位でも違うし、さらに言えば出場できるか否かでも異なる。ましてや柔道は日本のお家芸であり、メダル量産に対する期待値がかなり高い競技。決断に至るまでの強化スタッフの胸中には、外から見ているだけでは分からない重圧もあるはずだ。

 東海大、日本代表での現役時代に山下会長の教えを受け、五輪金メダリスト、日本代表監督と同じ道を歩む井上監督。代表発表という晴れの場で敗者への敬意を表し、選ばれた者たちには覚悟を求めた。師弟の根底にある共通の思いが伝わってくるような印象深い会見だった。(伊藤瀬里加)

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