「苦渋の決断」新型コロナで中止…体操界の常識覆すはずだった内村杯の全容

西日本スポーツ 伊藤 瀬里加 向吉 三郎

 体操の男子個人総合でロンドン、リオデジャネイロの両五輪を制した内村航平(リンガーハット)=長崎県諫早市出身=が創設し、18日に開催予定だった「KOHEI UCHIMURA CUP」(内村杯)。新型コロナウイルス感染拡大を受けて中止になったが、これまでの体操界の常識を覆す仕掛けが多く準備されていた。東京五輪の代表選考会に向けた内村自身の調整の目的だけではなく「体操の普及、発展」というテーマも掲げた画期的な大会の全容に迫った。

 あらがうことのできない相手に復活のシナリオは崩された。「苦渋の決断」。先月26日、内村は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、3月18日に群馬・高崎アリーナで開催予定だった内村杯の中止を発表。所属事務所のスポーツコンサルティングジャパンを通じて出したコメントに無念の思いをにじませた。

 昨年4月の個人総合の全日本選手権。内村は両肩痛の影響などで予選37位となり、決勝に進めなかった。NHK杯も出られず、世界選手権の出場を逃した。2008年北京五輪から11年連続で続けていた日本代表入りが消滅。19年8月の全日本シニア選手権でも精彩を欠き、同年11月のスーパーファイナルへの推薦出場が見送られた。

 10年以上も守り続けた地位を失い、内村は国内の大会が少ないことに気づいた。このままでは東京五輪を懸けた今年4月の全日本選手権と同5月のNHK杯がぶっつけ本番になる。「(大会を)つくるってありですか」。所属事務所に、演技の採点を確認し、試合の緊張感を味わうための大会創設を相談。その発想に内村のプロ活動を支える同社の西塚定人取締役は「斬新」と驚いた。現役選手が自らの冠をつけて主催する異例の大会はこうして動きだした。

 昨年11月の最初のミーティング。西塚取締役によると、内村は「成功させたい。全日本(選手権)前の調整としてだけではなく、今後も続けていきたい」とスタッフに訴えたという。体操の普及、発展に貢献したい思いが日本体操界初のプロの道に踏み切った理由の一つだけに思い入れは強かった。

 同社はサッカー日本代表の長友佑都や久保建英、J2福岡元監督の井原正巳氏らを抱えるサッカーの代理人業の大手。Jリーグの試合の運営も参考にしながら、今後の体操界発展、人気拡大に向け、「見やすい体操」「エンターテインメント性のある体操」を大会のコンセプトに掲げた。

 出場は12人に限定。会場内で6人が6種目同時に演技するのが通常の大会の形だが、「どこを見ていいのか分からないから」と演技するのは1人にし、観客の視線を集中する予定だった。採点もフィギュアスケートのように1人ずつ発表する方式を準備していた。

 これまでの体操界にはなかった大型スクリーンで演技の前に見どころを紹介する演出も取り入れていた。スポンサーも集めて選手への賞金も準備。これも異例だ。出場選手は白井健三(日体大大学院)ら16年リオデジャネイロ五輪の団体金メダルのメンバーとともに次代を担う高校生らも招待した。

 全員が昨年の世界選手権出場を逃しており、「僕と同じ状況だったので考えていることも同じだろうなと。全員を呼んで大会を盛り上げてほしいと思った」と内村は人選の意図を語っていた。

 体操界の常識を覆すような画期的な大会。所属事務所によると、前売りチケットは2月上旬時点で3分の2以上が売れるなど注目は高く、期待したファンは多かっただけに無念の開催持ち越しとなった。新型コロナウイルスの感染拡大に世界は沈んでいる。「僕はいつも、美しくて楽しくて面白いと思ってもらえるような体操を届けたいと思っています。皆さんとともに感染拡大防止につとめ、日々精進して変わることなく東京五輪を目指していきます」。リリースで送ったメッセージには内村の強い決意が込められていた。 (伊藤瀬里加、向吉三郎)

PR

スポーツ アクセスランキング

PR

注目のテーマ

福岡ソフトバンクホークス アクセスランキング