MGC動かした36歳「東京五輪、あるかも」中本が求め続けた数十秒

西日本スポーツ 伊藤 瀬里加

【記者コラム】

 画面に映る姿が大きくなるにつれ、私も思わず力が入った。31キロすぎ、最年長の36歳、中本健太郎(安川電機)が集団の先頭に立ってスタートから飛び出した設楽悠太(ホンダ)を追った。昨年9月にあった東京五輪選考会マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)男子の一場面だ。

 一時はその集団からも20秒以上遅れていたが、暑さに強く、追い上げるレース展開を得意とする。「東京五輪、あるかも…」。心が躍った。

 2012年ロンドン五輪で6位入賞し、世界選手権に3度も出場。黙々と結果を残す姿を取材してきた。最後は8位にとどまったものの「自分らしさと存在感を十分に示す事ができた」と振り返った姿が忘れられない。

 五輪への思い、仕上がりの良さはレース2日前の取材で感じていた。物静かで、大言を吐くタイプではない。だが、「全盛期に近い練習をこなせた」「ここに懸けてきた思いが強いので、身の締まった、いい練習ができたのかなと思う」と語る口調は力強かった。

 ロンドン、リオデジャネイロに続き、3度目の五輪選考は初の経験だった。MGCは17年夏から選考レースを実施。基準をクリアしたメンバーが一発勝負で代表の3人中2人を決めた。五輪のメダルに少しでも近づくことを目指した制度だ。

 特に男子は箱根駅伝で活躍したスピードランナーが次々にマラソンに挑戦。02年から16年間も塗り替えられなかった日本記録がMGCまでに2回更新された。

 「時代が変わって、最近の選手たちはレベルも上がった。その中に身をおける喜びと、五輪を目指せるところにいられるという思いがある」

 ここに至るまでの時代を引っ張ってきたからこその自負が詰まった言葉だ。五輪の男子マラソンは森下広一が銀メダルを獲得した1992年バルセロナ大会以降、入賞者は3人だけ。しかも、中本はロンドン五輪翌年の13年世界選手権で順位を一つ上げて5位に入っている。

 2年連続で世界大会入賞を果たしたが、「入賞とメダルは価値が全然違う」と実感もあったという。銅メダルとの差はロンドン五輪が1分39秒、13年世界選手権が27秒だった。「東京でメダルを取れたら、競技者としてのいい形での集大成になると思う」。あと数十秒差まで迫ったメダルを今も追い続けていた。

 「自分なりに見せ場をつくりたくて」と語ったレースには、日本マラソンの歴史をつないだランナーの「生きざま」を見た気がした。主将を務める本年度、チームのホームページに記したメッセージは「16年目のシーズンとなりますが、これまで以上に楽しんで走りたいと思います」。その姿を、まだまだ追いたいと思わせる選手だ。 (伊藤瀬里加)

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