松坂と伝説の投げ合い、プレーオフの後 記者が電話で聞いた斉藤和巳の別人のような声

西日本スポーツ 松田 達也

【鷹番は見た】

 プロ野球開幕を待つ中、弱小軍団と呼ばれた時代からひたすらホークスを追い続けてきた西日本スポーツならではのコラム「鷹番は見た」を企画した。歴代担当記者があの日、あの試合、あの出来事を振り返る。

■球界代表する2投手

 ダイエー、ソフトバンクと時代を紡いできた福岡移転後のホークスで最高の投手は? 自宅で過ごす時間が長いであろうファンにとってじっくり考えれば候補は数知れないだろうが、個人的には斉藤和巳を推したい。では同じ時代のパ・リーグを代表する選手といえば? 間違いなく挙がるのが西武の松坂大輔だ。

 2003年に20勝を挙げエースとして飛躍した斉藤と、高卒1年目の1999年から球界を引っ張った松坂。2人の投げ合いは03年から松坂が海を渡る前の06年まで計10度あり、斉藤5勝、松坂4勝と互いに譲らぬ成績だった。その中でも最大の名勝負といえば06年10月7日のプレーオフ(PO)第1ステージ第1戦の緊迫した投手戦だろう。

 この試合は松坂が6安打完封の快投を演じた西武が1-0で勝利。ソフトバンクの斉藤は8回1失点で黒星を喫した。多くのプロ野球ファンの記憶に残る一戦を伝えた当時の西スポ紙面には、自らへの怒りのあまりにグラブをベンチにたたきつける斉藤の衝撃的な写真が掲載されている。

 崖っぷちに立たされたソフトバンクは第2、3戦に連勝し逆転で第1ステージを突破。札幌で待つ日本ハムとの第2ステージに進んだ。松坂との壮絶な投げ合いから2日後、練習で「腕が抜けない限り全力で投げる」と気合をみなぎらせていた斉藤の照準は第2ステージ第2戦、自身初の中4日でのマウンドだった。

 斉藤が勝利数、防御率、勝率、奪三振などタイトルを総なめにしたこの年、投球回は自己最多の201に達していた。その上で、右肩の故障歴を抱えながらの中4日。大きなリスクがあったのは間違いない。それでも当時、チームにも取材する報道陣にも、当然のように「第2戦は斉藤」という空気が流れていたことを覚えている。

 04年のPO導入後、チームは05年まで2年続けてレギュラーシーズンを1位で通過しながら敗退(当時はプレーオフ勝者=リーグ優勝)。斉藤は松坂との投げ合いで敗れたことで、ポストシーズンの連敗が4となっていた。加えて06年は手術を受けた王監督が7月から離脱。そうしたさまざまな背景もあり、エースは無理を承知の上で札幌のマウンドに立った。

 第2戦を落とし負ければ3年続けてPO敗退、優勝が消滅する一戦。日本ハム先発の八木とまたも壮絶な投手戦となり、斉藤は9回に力尽きた。第1ステージの松坂との投げ合いに続き0-1での黒星。札幌移転後初優勝の日本ハムと対照的に、サヨナラ負けの悲劇的な幕切れでマウンドにがっくりと座り込む斉藤の姿は、今なお語り継がれるシーンとなった。

 その敗戦から約1週間後だったと記憶する。シーズンを振り返る企画記事のため、私は斉藤に電話で連絡した。いつもの力強い口調ではなく、別人のような声だったことを鮮明に覚えている。燃え尽きてしまったような、力を失ってしまったような、あんな声を聞いたのは初めてだった。

■取材者にもプロ求め

 投げれば勝つ。そんな投手だった。必然的に記事は増えたが、取材には苦労した。練習から妥協を許さないストイックなエースは取材者にもプロの仕事を求めた。知識不足による拙い質問をすれば、容赦なく厳しい言葉を浴びせられる。それでも振り返れば、球史に残る大投手の取材を通じて学ぶことも多かった。

 今年2月、宮崎・南郷での西武のキャンプ。野球解説者、評論家として視察に訪れた斉藤の姿を見つけた松坂が駆け寄り、笑顔で話す場面に立ち会った。互いにエースとして投げ合っていた当時、斉藤は松坂を意識していたことを隠さなかった。時が流れ立場も変わった今、斉藤にとって松坂はどんな存在なのか。

 「周囲のいろんな声があったけど、実績を見たら比較にならない、と思っていた。今思えば、あんなスーパースターと一緒に投げられて光栄だった」

 右肩のダメージを抱えた斉藤は07年は登板間隔を大きく空けてしか投げられなくなり、08年1月に2度目の手術。以降は一度もマウンドに立てないまま10年に3度目の手術、11年に現役復帰を目指す形でコーチとなり、13年7月に復帰を断念し、引退表明した。一方の松坂は07年から米大リーグでプレー。古巣の西武ではなくソフトバンクで日本球界に復帰した15年、斉藤は退団していた。

 あの年、POがなければどうだっただろう。7割7分5厘の圧倒的な勝率を誇りながら通算79勝(23敗)にとどまった斉藤の投手人生は延びたかもしれないが、伝説となった松坂との投手戦も実現することはなかった。開幕延期が続くプロ野球は今、クライマックスシリーズ(CS)の中止も取り沙汰されている。賛否があるとはいえ、中止となれば新たな名勝負が生まれる機会を逸する。果たして、どのような秋を迎えるのだろうか。 (松田達也)

 =敬称略

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