車いすテニスから転向、パラ・アーチェリーで東京パラ初代表 運命決めた2人との出会い  

西日本スポーツ 林 原弘

 東京パラリンピックのアーチェリー女子代表に内定している重定知佳(37)=林テレンプ、北九州市八幡西区出身=が、初めて臨む大会での金メダル奪取を力強く誓った。車いすテニスで実績を残し、引退後に「趣味」で始めたパラアーチェリーで大舞台への道を切り開いた。その人生の転換点にはパラスポーツトップクラスのアスリート2人との出会いがあった。

 3月末、日本身体障害者アーチェリー連盟が1年延期となった東京パラリンピック代表選手の内定維持を発表した。重定は「ほっとした。再選考になったら気持ちを上げられるか不安だった。1年間で技術を上げたい」と意気込んだが、新型コロナウイルス感染拡大の影響をもろに受けた。

 普段練習をする北九州市のアーチェリー場が今年3月に使えなくなり、練習では福岡や佐賀でできる場所を探した。4月に福岡県が緊急事態宣言の対象となってからは自宅で近距離の射的やトレーニングを続けた。「実戦練習ができないのは不安でも、今はコロナにかからないことが大事」と気持ちを切り替えた。

 重定は中学2年の時、脊髄の病気で両脚が徐々にまひ。歩行が難しくなり、気持ちが落ち込み、不登校になった。19歳の2002年に就職。それでも引きこもりがちな重定を、同僚が自らやっていた車いすテニスに誘った。当時の重定は車いすを使っておらず、操作の習得から始まった。「スポーツなんて全く興味がなかったのに、歩けない人たちが楽しんでいるのを見て世界観が変わった。私もできないことがあると悔しかったし、心に火がついた。パラリンピックに出た人とも練習して、パラを目指そうと思った」。最高で日本ランキング6位になった。

 23歳のころ、重定はある小学生選手と出会った。「すごい実力の持ち主なのは分かった」。今や世界のトップ選手となった上地結衣(三井住友銀行)。「あっという間に抜かれた。若い子は強くなるのが速い。このころからテニスへの熱が冷めた」。30歳だった13年3月に現役引退した。

 次は趣味でできるスポーツを探した。北九州市にアーチェリークラブがあることを知って15年に競技を始めた。「刺激は欲しかったので、1年間は真剣にやろうと思った。東京パラの開催は決まっていたが、全く意識していなかった」。だが翌16年、全国障害者スポーツ大会の女子リカーブ30メートルで優勝。そこでまた大きな出会いがあった。

 同大会に同年のリオデジャネイロ・パラリンピックで男子リカーブ7位の上山友裕(三菱電機)が出場。「リオでの活躍をテレビで見ていた。私にとってスター」と重定。声を掛け、「30メートルをやっています」と話すと「明日練習を見に行きますよ」。“スター”は本当に来た。「すごくきれいなフォームですね」と褒められた重定に上を目指す気持ちが芽生えた。

 上山は連盟の理事に重定を紹介。重定は日本代表合宿にも呼ばれた。17年にパラ世界選手権に初出場。上位に進めず「世界との差を見せつけられた。東京に出たいという気持ちが高まった」。一日に「6時間は普通にやる」という猛練習でフォームを見直して安定感と矢の力強さを高め、昨年6月のパラ世界選手権女子リカーブでは8強入りは逃したが「がちがちに緊張した」中で7人による敗者復活戦で3位となり、東京大会の切符を手にした。38歳で迎える大舞台。「金メダルしかない。そこを目指してみんなやっている」と力強く誓った。 (林 原弘)

普段からライン上地と仲良し

 重定は“テニスを諦めさせられた”1回り下の上地と今も交流を続け、年賀状やLINE(ライン)のやりとりをしている。「つい先日、NTC(味の素ナショナルトレーニングセンター)で入れ違いになったんです。パラリンピック用にウエアの採寸に来ていたら、彼女から『さっき帰っちゃったんですよ』とLINEが送られてきました」と仲の良さを語った。

 ◆重定知佳(しげさだ・ちか)1982年11月22日生まれ。北九州市の折尾高までスポーツ歴なし。上山とコンビを組んだリカーブ混合では2018年アジアパラ大会で銀メダルを獲得し、今年2月のドバイでの世界ランキングトーナメントで優勝。リカーブ女子の世界ランキング5位。18年に自動車内装部品メーカーの林テレンプ(本社・名古屋市)に入社し、福岡県宮若市の福岡事業所で勤務。練習時はEXILEやその系列のアーティストの曲をBGMで流す。156センチ。

 ◆東京パラリンピックでのアーチェリー 使う弓や障害の程度によって種類は「リカーブ」「コンパウンド」「W1」の3種類に分かれる。「リカーブ」は五輪でも使われる弓を使用。「コンパウンド」は弓の両先端に滑車がつき、リカーブの半分程度の力で引ける。「W1」は四肢に障害があって車いすに乗った選手が対象で、使う弓はどちらでも良い。的はリカーブが70メートル先で、他は50メートル先。それぞれ男女個人と混合が行われる。日本勢は、2008年北京大会以来のメダル、さらに1996年アトランタ大会以来の優勝を目指している。

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