ストイックすぎる18歳 フェンシング五輪代表有力選手 転機はTV取材中の大敗

西日本スポーツ 末継 智章

 若手の成長が著しいフェンシング女子フルーレで、1年延期された東京五輪の日本代表入りが確実視されるのが18歳の上野優佳(中大)だ。両親も競技経験があり、兄の優斗(同)も競技に取り組む「フェンシング一家」で英才教育を受け、中学1年時の苦い敗戦を機に大きく飛躍した。母の瞳(43)が語る娘の負けん気の強さとストイックさとは-。 (末継智章) (文中敬称略)

■兄の背中追い

 瞳は1枚の写真を取り出した。まだ幼い優佳の隣に並んでいるのは、2008年北京五輪男子フルーレ個人で日本選手初のメダルを獲得した太田雄貴(現日本フェンシング協会会長)だ。

 「08年の北京五輪後に大分県日田市で行われ、太田会長が京都代表で出場した大分国体。私たち夫婦は裏方で参加し、優佳も遊びに来た。当然太田会長と面識はないが、娘は『テレビで見たことがある』とミーハーな気持ちで撮ってもらった」

 両親とも元国体選手。6歳で太田が分かるほど、優佳にとってフェンシングは身近な存在だった。日田市内で父が指導を手伝うクラブチームが2歳上の兄優斗との遊び場で、自然に剣を握った。

 「兄と本気でけんかするほど負けず嫌い。最初は遊び感覚だったけど、5歳のときに地元の大会で年上の男の子に負けると泣きじゃくった。負けたくないから頑張るようになった」

 大分国体翌年の09年。大分県別府市へ引っ越すと、小学2年生になった優佳は本格的に父の教えを受けた。週4日、1日2時間の練習に加え、自宅に帰ってからもリビングで、父の前で基本動作を繰り返した。

 「部屋の長さは5メートルぐらいしかなく、1回ファンデブー(前足を伸ばす突き)の練習の繰り返し。『どこが悪いの?』と泣きながら、同じ動作を1時間やったこともある。基本ができているのは、小さいころからの積み重ね」

 英才教育を受けた優佳は小学生のときから全国大会で優勝を重ね、中学1年生になると、スポーツ界の金の卵を紹介する「ミライ☆モンスター」(フジテレビ系)の密着取材も受けた。しかし取材中だった全国少年フェンシング大会の中学女子フルーレ決勝トーナメント3回戦で同学年の選手に4対10で大敗。瞳はこの負けが転機になったと振り返る。

 「負けたことがなかった相手だったので、本人も私も衝撃を受けた。でも優佳は1週間もしないうちに切り替え、練習に打ち込んだ。本当に強くなったのはそこからだと思う」

■全中で初優勝

 中学2年生のときに新設された全国中学生選手権の女子フルーレで初優勝し、翌年はサーブルとの2種目を制覇。中学3年になるとナショナルチームの関係者から「五輪を目指せる位置にいるから、東京に来ないか」と、味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)に近い星槎国際高(埼玉)への進学を持ちかけられた。家族で悩んだ末、兄のいる地元の別府翔青高に進んだ。

 「誘われた当時、まだ高校に寮もなく、競技に打ち込める環境か不安だった。まずは全国トップレベルの兄がいる地元の別府翔青を選んだ」

 優佳は入学すると、前年の全国高校総体男子団体で優勝した兄ら2学年上の先輩たちと練習し、スピードを高めた。1年生で出場した全国高校総体のフルーレ個人で兄とアベック優勝。決勝で競り勝ったのは、こちらも東京五輪での日本代表入りが確実視される東晟良(日体大)だった。

 「優佳は『お兄ちゃんは優勝できる』と確信し、きょうだいで優勝したい思いがあった。同時に始まった決勝で兄が相手と接触して倒れたけど、気にせず集中していて。ずっと負けていた東さんに勝てたのは兄の存在が大きかったと思う」

 全国高校総体を制した優佳は転校を決意。2年生に進級するタイミングで受け入れ態勢が整った星槎国際高に進むと、世界ジュニア・カデ選手権と夏季ユース五輪を制覇。同選手権の直後に太田会長の公式ツイッターで「大大大快挙!」と絶賛され、東京五輪期待の星として推されるようになった。18年12月には太田会長が手がけた若手育成のキャンプでMVPに選ばれ、直接表彰状を受け取った。

 「マイナー競技なので優勝しても小さな記事しか載らなかったけど、会長が発信すると反響が大きかった。名前も知ってもらい、賞ももらえて…。(初対面から)10年でこうも変わるんだなと思うと幸せ」

 優佳は昨夏は右脚を痛め、夏休みに約1カ月間帰省して治療に専念した。五輪代表争いの最中だったが焦らず、かといって久々の帰省で気を緩めることもなかった。

 「体重は増やせないけど筋肉は落とせないので、食事では右利きなのに左手で箸を持ち、ゆっくりと食べて満腹感が出るようにしていた。友達からの誘いも練習があるからと断り、家にあるバイクを汗びっしょりになるまでこいでいた。ストイックなのか、わが子ながらすごい」

 代表選考対象の大会を1試合残した段階で東京五輪の延期が決定。新型コロナウイルスの影響で練習拠点のNTCも使えず、自宅待機が続いていた。瞳は食料品などを送りながら娘の身を案じる。

 「優佳は『五輪延期が決まっても頑張らないといけない』と思っている。代表の行方は不安だけど、それよりもけがをしないでほしい」

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