「元ソフトボール少女」渋野日向子さんがハイタッチをしていた理由に納得

西日本スポーツ

 東京五輪ソフトボール女子日本代表の宇津木麗華監督は、北京五輪以来となる金メダル獲得の期待を担う中で令和を迎えた。

 生まれ故郷の中国から昭和に来日。選手や指導者として平成を駆けた。一度は五輪から除外された期間の苦しさを知るからこそ、選手には日本代表として五輪で戦う意味や価値を問い続ける。「競技人生の集大成」と言い切る東京五輪への道のり。その思いを語った。

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 女子ゴルフの渋野日向子さんに初めてお目にかかったのは昨秋、日本リーグ女子の試合会場だった。明るいし、よく笑う。彼女のお母さんが私と同じ陸上のやり投げ出身と伺い、余計に親近感も湧いた。大ファンという上野由岐子(ビックカメラ高崎)の投球を食い入るように見つめていた。好きを通り越して大好きなのだろう。憧れの人と一緒にプレーしているのでは、と感じさせるほど真剣なまなざし。歴史的快挙を果たした「全英女王」ではなく、一人の「元ソフトボール少女」がそこにいた。

 渋野さんのギャラリーとのハイタッチは小学校時代のソフトボール経験が影響しているそうだ。安打を打ったり、ベンチに戻ってきたりするときの日常でもある。チームごとに工夫しながら喜びを表現し、選手同士でジェスチャーを決めて楽しむ場合もある。仲間の成功を素直にたたえ、パワーをもらった自分自身もいい結果につなげていく。選手が決まった順番(打順)で登場するスポーツはいかに良好な流れを生み出せるかも勝利への鍵となる。

 「やっぱりうれしいことは分かち合いたいから」との渋野さんの説明に納得しつつ、自分のリズムとして取り入れることでスピーディーな切り替えにも生かしているような気がした。ミスの直後にナイスプレーでリカバリーできるのも、ギャラリーとの“触れ合い”でスイッチを上手に入れているからではないか。

 推測ながら、上野との共通点を挙げるなら、未来でも過去でもなく今に集中していることだろうか。上野は「金メダルを取りたいから○○な練習をしよう」なんて全く思っていない。普段通り、その積み重ね。2008年北京五輪での26歳と、間もなく38歳を迎える「今」とではアプローチが違って当然なのだ。渋野さんも昨季の活躍を「過去」として捉え、進化することしか考えていないはずだ。

 ここ一番での集中力にも優れた上野は、渋野さんの声援を受けた試合でノーヒットノーランを達成した。以前、私の誕生日に「監督、何かプレゼントしますよ」と言われたので「じゃあ、おいしいものでも」と返したら、完全試合をやってのけたこともある。そんな上野のすごさを知っているから、渋野さんの目の前でのパフォーマンスも納得できた。快勝の展開にもかかわらず「今日は狙います」とマウンドを譲らなかったのは、感謝のメッセージを形で伝えたかったのだろう。

 スポーツが再び動きだし、今月末には女子ゴルフの国内ツアーも開幕する。自分のペースを崩さない渋野さんのことだ。無観客開催でも、きっと何かを考えて、ご自身なりのリズムをつくり出していくことだろう。新たな姿から私たちもヒントを得られるかもしれない。渋野さんにとって上野が仰ぎ見るスターなら、渋野さんはソフトボール界にとっての女神。来夏に向けて“心のハイタッチ”でお互いを高め合えたら、こんなにすてきなことはない。
 (ソフトボール女子日本代表監督)

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 宇津木 麗華(うつぎ・れいか)1963年6月1日生まれ。中国・北京市出身。元中国代表。88年来日、95年日本国籍取得。現役時代は内野手で日本代表の主砲、主将として活躍し、シドニー五輪銀メダル、アテネ五輪銅メダル。2003年に日立&ルネサス高崎(現ビックカメラ高崎)の選手兼任監督就任。04年に現役引退後は11年から15年まで代表監督を務め、12、14年の世界選手権優勝。16年11月、再び代表監督就任。群馬女子短大を聴講生として卒業。右投げ左打ち。

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