ミスターセブンズ桑水流「荷物持ちと思った」からの代表での激闘

西日本スポーツ 大窪 正一

 体を張り続けてきた男の証しに、自然に目がいくようになった。福岡大2年からラグビーの7人制日本代表で活躍してきた桑水流裕策(コカ・コーラ)。激しいタックルを繰り返すことで耳がこすれ、腫れて血がたまって固まった「ギョーザ耳」の持ち主だ。

 34歳のベテランは1年延期された東京五輪出場を断念した。前後半7分ずつ(大会によって決勝は同10分ずつ)と試合時間は短いが、グラウンドの広さは15人制と同じでパワーと運動量の両立が必要な7人制。決断理由は年齢的な体力面かと思ったが、彼らしい気持ちの部分だった。

 2005年に7人制代表に初選出。「荷物持ちで呼ばれたのかと」と驚くほど思いがけないキャリアのスタートだった。愚直で献身的なプレースタイルは水が合った。188センチの身長を生かし、キックオフなど空中戦で活路を見いだし代表に定着した。

 鹿児島工高でラグビーを始めたが全国的には無名だった。佐賀工高出身の五郎丸歩(ヤマハ発動機)や福岡・小倉高出身の山田章仁(NTTコミュニケーションズ)と同学年。九州出身の2人の活躍も励みに地道に一歩ずつ積み上げた。

 7人制に愛着が芽生えると同時に注目度の低さに歯がみもした。「光が当たる日を信じ、7人制への誇りと意地で突き進んだ」。14年アジア大会では金メダル獲得に貢献。いつしか「ミスターセブンズ」と呼ばれる存在になった。

 一つの集大成が、周囲に推される形で主将に就いた16年リオデジャネイロ五輪だ。日本協会の一室でインタビュー取材に応じてくれた際、口下手の彼が脂汗をかきながら7人制への思いを一生懸命語ってくれた姿が忘れられない。

 リオ切符を懸けた予選前は鹿児島へ墓参り。「ぶっ壊れていいが、最後までグラウンドに立たせてと手を合わせた」。リオでは優勝候補のニュージーランドを破るなど4位入賞。全6試合に先発出場し背中で引っ張った。気持ちが全てだった。

 リオ直後は完全燃焼を実感。だが一度体に宿った「7人制魂」が再燃した。昨年、引退を撤回して2度目の五輪への挑戦を宣言。期する思いで迎えた五輪イヤーに見舞われたのがコロナ禍だった。気持ちを大切にする男は整理し切れなかった。

 昨秋の15人制ワールドカップ(W杯)日本大会で活躍した福岡堅樹(パナソニック)も五輪を断念。そのインパクトの大きさに、桑水流の決断がやや陰に隠れてしまったのも彼らしい。トップリーグ復帰を目指す所属チームでプレーは続ける。7人制女子の新チーム「ナナイロプリズム福岡」(福岡県久留米市)のヘッドコーチも務めるなど、7人制への愛も変わらない。派手さはないが、鈍く光るいぶし銀の輝きがまぶしい。 (大窪正一)

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