「G線上のアリア」「ハイジャック」…漫画の“秘打”を現実にする男・柳田悠岐

西日本スポーツ 森 淳

 4日の日本ハム-ソフトバンク戦(札幌ドーム)の終盤、誰もがアッと驚く光景が繰り広げられた。

 9回表ソフトバンクの攻撃、先頭打者は柳田。日本ハムの左腕・吉川の外角低めストレートを打った打球は、センターへの飛球となった。左中間寄りに走る中堅手・西川。そのまま落下点に入るかと思われたが、捕球寸前で打球は進行方向と逆にスッと変化した。

 慌てて切り返し、飛びついた名手・西川だったが及ばず、打球は中堅深くを転々。この間に柳田は三塁に到達した(記録は三塁打)。そればかりか、ベンチの「ホーム!」の声の中、三塁をオーバーランしてあわよくばランニング本塁打を狙おうという構えだった。

 投球コースからしても、普通は右中間方向へ切れていきそうなもの。規格外のパワーが奇想天外な変化を生んだか。野球漫画「ドカベン」の殿馬一人は「秘打ハイジャック」でアッパースイングから打球に回転をかけ、凡フライに見える打球を大きく変化させてポテンヒットにした。そんな漫画の世界を思わせる一打だった。

 柳田の「秘打」は今回に限らない。ファンの語り草は2017年、6月6日のヤクルト戦(ヤフオクドーム=当時)。同点の延長10回2死三塁、ヤクルトの左腕・久古の内角シュートをフルスイングしたが、当たり損ねで三塁線へボテボテのゴロになった。

 一塁送球しても間に合わないと判断したヤクルト内野陣はファウルになるまで静観を決め込んだが、当時張り替えられたばかりの人工芝で勢いは殺され、打球は三塁線ギリギリで止まった。球界屈指の飛ばし屋による、推定飛距離10メートルのサヨナラ内野安打。セーフティーバントでファウルライン上にピタリと止める殿馬の秘打になぞらえ、ファンからは「G線上のアリア」の声も上がった。

 「結構、長いこと野球をやってるけど、初めて見ました」。当時、こう言って笑ったソフトバンク工藤監督。そして今回も「すごかったですね。曲がっていった。あまり見たことないですね。あそこまではなかなか見ない」と驚きを隠さなかった。通算224勝、プロ野球史上最長タイの実働29年を誇るレジェンドが、ここ3年で2度も特異なものを見たわけだ。

 柳田はこれで今季初の猛打賞。波に乗れないチーム事情にあって、開幕から放った3発が全て空砲になる不遇もあったが、打率も2割9分4厘と3割目前まで上昇。本格的にエンジンがかかってきた感もある。そのフルスイングが圧巻の特大アーチに限らず、どんな軌跡を描くか。プロ野球ファンの楽しみは尽きない。(森 淳)

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