甲子園目前の「引退試合」 涙の母には見せられなかった、高校最初で最後の安打

西日本スポーツ 前田 泰子

 代打が告げられ背番号20の岡本航海(かずま)が打席に立つと、それまで控えめに抑えられていたスタンドの声援のボリュームがグンと上がった。

 長崎・創成館ベンチからも拍手と声が湧き起こる。仲間の後押しに応えるように、岡本は左前へ安打を放った。全国高校野球選手権長崎大会の代替となる長崎県高校野球大会の初戦。この1安打が高校時代唯一の公式戦の記録となる岡本は「最高でした」と顔をほころばせた。

 中学時代に創成館の特集をテレビで見て「厳しいところでやりたい」と神奈川県藤沢市から入学した。昨夏の長崎大会は準々決勝敗退。新チームのスタート時、稙田龍生監督から「選手と兼任で学生コーチをやってくれないか」と打診された。「一生懸命やる子なので、役割をつけて自信が持てるように」と稙田監督は指名した理由を話す。岡本は「選手を続けられるし、特に迷うことはなかった」とすぐに承諾し、選手と同時に学生コーチの肩書を持った。

 創成館はマネジャーを含め部員121人の大所帯。練習をスムーズに行うためにはコーチだけでは手が足りない。コーチから聞いた練習メニューを選手に伝え、選手を複数のグループに分けるなど、練習を円滑に進めるために学生コーチは欠かせない存在だ。「うまくいかなくてコーチに怒られたりもしました」。全員をまとめることは難しく、人知れず涙を流したこともある。

 最後の夏の大会で初めて背番号20をもらい、高校生活で初のベンチ入りを果たした。でも、それは選手としての「引退試合」でもあった。稙田監督からは「これがおまえの最後の試合だ」と告げられていた。それを知った母も神奈川から息子の晴れ姿を見に来てくれた。雨のため試合が2日延期となり、滞在を延ばせない母は試合を見ることなく帰った。プレーする姿は見せられなかったが「ユニホームを着たところだけ見せたんです」。背番号をつけた息子の姿を見て母は泣いていた。

 最初で最後の打席ではみんなの応援が心に響いた。「うれしかった。ちょっと感極まってしまいました」。これから先は甲子園交流試合でプレーする仲間のために力を注ぐ。雨交じりの球場で放った安打は岡本の一生の宝物になるだろう。(前田泰子)

PR

高校野球 アクセスランキング

PR

注目のテーマ

福岡ソフトバンクホークス アクセスランキング